読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2012-01-01から1年間の記事一覧

ジョー・ヒル「ホーンズ 角」

まったく予想のつかない内容の本だったので、期待満々で読み始めた。開巻早々とにかく角が生えてくる。いきなり始まってしまう。そして、そのことによって主人公のまわりにあらたな現象が起こることになる。このへんの展開はとてもおもしろい。隠されていた…

トム・フランクリン「密猟者たち」

トム・フランクリンといえば、昨年ハヤカワポケットミステリから刊行された「ねじれた文字、ねじれた路」が話題になった作家なのだが、これは読みかけてノレず一旦手放した。「二流小説家」とあわせてまた読むことになるだろうが、本書はそのフランクリンの…

石蹴り

石を蹴る。ころころころ。軽く飛ばされ跳ねてゆく。ぼくは世間に顔向けできない身だ。この石のようにどこかへ飛んでゆきたい。自由を知りながらぼくは自由じゃない。そう、自由でありながら常に何かに束縛されている。それは社会であり法律であり家族であっ…

伊藤計劃「The Indifference Engine」

伊藤計劃の死後さまざまな本に彼のフィクションが収録されていたが、本書はそれらを一冊にまとめた彼の第一短編集だ。このように文庫本の形で刊行されてまことに喜ばしい。本書に収録されている作品は以下のとおり。 ・「女王陛下の所有物 On Her Majesty's …

ジョー・R・ランズデール「ダークライン」

本書は追想の物語なのである。五十代後半のスタンリーが過去の出来事を振りかえる形で物語が進んでゆく。時は一九五八年、十三歳のスタンリーは家族と共にテキサス東部のデューモントという町に引っ越してくる。そこで売りに出されていたドライヴ・イン・シ…

今村友紀「クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰」

ある日突然崩壊する世界。主人公のマユミは女子高で授業を受けている最中にその瞬間に遭遇する。目が見えなくなるほどの閃光と聞いたことがないくらい大きな轟音。何かが起こったことは間違いないのだが、いったいそれが何なのかはわからない。パニックに陥…

野坂昭如「童女入水」

衝撃的なタイトルだ。しかし、この表題作で描かれるのは一人の童女の死だけではない。この短編30ページほどの短いものなのだが、童女の死にたどり着くある一族の暗い歴史がまるで年代記のように描かれるのである。その濃密な世界は読むものを圧倒する。短…

北野勇作「きつねのつき」

天気のいい日曜の朝、あたたかい陽射しをあびて幼い子と公園に遊びに行くような、なんとも平和で愛 らしい幕開けで本書は始まる。父と娘、仲むつまじく暮らす親子。三歳の春子は最近よく言葉をおぼえ、 舌足らずながら色々なことを話してくる。語り手である…

2月の読書メーター

2012年2月の読書メーター 読んだ本の数:8冊 読んだページ数:2768ページ ナイス数:33ナイス ■一一一一一(イチイチイチイチイチ) 『なんだこれ…』がとても気になるんですけど………。 読了日:02月29日 著者:福永 信 http://book.akahoshitakuya.com/cmt/17…

古本購入記  2012年 2月

今回は7冊6作品。新刊は一冊も買ってない。そういう時もあるよね。っていうか、ほんと最近は欲しいと思って飛びつく本がないのだ。読みたいと思う本はそこそこあるのだけれど、手元において愛でたいと思える本がほんと少なくなってきた。本屋に行っても以…

福永信「一一一一一」

対話なのだ。二人の人物がいて、話している。それはとてもありふれた風景だ。本書に収録されている六つの短編はすべてそのパターンを踏襲している。そして語られる内容は推測と導きによって進められてゆく。そうなんだね?そうだろう?そうではないか?こう…

ヴィンシュルス「ピノキオ」

以前にもBD(バンド・デシネ)の作品を何作か紹介した。国書刊行会から出てたクリストフ・シャブテ「ひとりぼっち」、エマニュエル・ギベール「アランの戦争」、パスカル・ラバテ「イビクス」などなどである。フランスの漫画など読んだことがなかったので…

スティーヴ・ハミルトン「解錠師」

幼い頃に悲惨な体験をして、そのことが原因で一言もしゃべれなくなってしまった少年マイクル。彼にはどんな錠前でも開けてしまう特殊な技能と、物事をしっかり記憶してそれを描写する才能があった。高校生になった彼はあることがきっかけで裏の世界とかかわ…

十の嘘とアデュー・モナムール

田中くんの家には古いタンスがあって、その中にはおばあさんのミイラが折りたたまれて収納されている。ぼくはよくそのミイラを見に行く。本当は気持ち悪いと思っているのだが、なぜかたまに見たくなるのだ。ともだちの田中くんは目の大きな女の子みたいな顔…

舞城王太郎「NECK」

これ2010年、夏の「NECK」の映画公開にあわせて刊行されていたのだが、読もう読もうと思いながらいままで読まずにきた。なぜなら本書に収録されている4編の話のうち3編がシナリオ形式で書かれていたからなのだ。それだけでちょっと億劫な気持ちに…

『啓示』

お互いの箸で大きめの肉団子を食べさせあっている双子のそばを通って、緑色に透きとおった橋を渡ると、犬ふぐりという町だった。 おれは町のはずれに立って、陽のあたる大きなメインストリートを眺めやった。そこには雑多な店々が並んでおり、奇妙な匂いもあ…

景山民夫「虎口からの脱出」

本書は景山氏があの有名なトンプスンの「A-10奪還チーム出動せよ」に触発されて書き下ろした冒険小説である。大元であるトンプスンの本は未読なのだが、カーチェイスが目玉の冒険小説だということぐらいは知っていた。だから本書もカーチェイスがメイン…

キアラン・カーソン「トーイン クアルンゲの牛捕り」

本書を読んで、まず驚くのはその自由自在な発想だ。もう人間の想像力の限界をとび越えてしまっているかのような予想もつかない展開や描写に圧倒されてしまう。本書の主人公は古代アイルランドの伝説の中で一番有名な英雄クー・フリンなのだが、この十七歳の…

古本購入記  2012年 1月

BSのFOXチャンネルで金曜の夜9時から「ウォーキング・デッド」というドラマをやっている。明日で第4話なのだが、これがもう素晴らしくよく出来たゾンビ物なのだ。もともとこれはアメコミが原作でそれの翻訳版も風間賢二氏の訳で飛鳥新社から刊行され…

ジュノ・ディアス「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」

本書で描かれているのは巨漢でオタクの女の子にまったくモテたことのない青年の情けない人生の話ではない。いや、それも描かれている。主人公であるオスカーはSFとファンタジーをこよなく愛し、自らもSF小説を執筆するアニメ狂いでロールプレイング・ゲ…

アイザック・ディネーセン「アフリカの日々」

あまりにも有名な自伝であり記録文学である本書は、著者が農園主としてアフリカで過ごした18年間の出来事を思い出すままに綴ってあるのだが、これがまさに豊穣というしかない読み物となっている。シドニー・ポラックが監督を務め、メリル・ストリープとロ…

カルロス・バルマセーダ「ブエノスアイレス食堂」

原題を見ると「Manual Del Canibal」とある。スペイン語はよく知らないが、それでもこれの意味するところが「食人者のマニュアル」だということはわかる。本書の1行目も以下のような出だしだ。『セサル・ロンブローソが人間の肉をはじめて…

クリフ・マクニッシュ「ゴーストハウス」

母と息子が引っ越してくる。町はずれにある築二百年の古い農場の家だ。喘息の持病をもつジャックは父を病気で亡くして、いまでもそれを引きずって生きている。彼は古い家具や家に触れるとそれを使っていた人々の古い記憶を感じる能力があった。父を亡くした…

鏑木蓮「しらない町」

アルバイトで大阪の吹田にあるアパートの管理人をしている門川誠一は、人付き合いの苦手な映画監督を夢見る29歳の青年だ。彼は管理会社の担当から連絡を受け103号の帯屋史朗の部屋を訪れる。どうやら数日間部屋から出ておらず、異変に気づいた住人から…

石井光太「遺体 震災、津波の果てに」

誰もが知っているとおり今回の東日本大震災では多くの人命が失われた。行方不明者も含めると、その数約二万人だという。そのほとんどの人が津波によって命を落としているのも周知の事実だ。何事もなく過ごしていた平凡な日常が一瞬にして変貌し、地獄と化し…

西村賢太「苦役列車」

西村賢太の本を読むのも、これで四冊目だ。はっきりいってどれを読んでもみんな同じ感触なのだ。一言でいってしまえば、人間的にまったくダメな男である北町貫多の面倒くさくて往生際の悪い日常を描いているだけの作品なのだ。だけども、そうとわかっていて…

沢村鐵「封じられた街(上下)」

その街では不可解な事件が頻発していた。模様をつけるように配置された落ち葉に埋もれた動物の死骸が数多く発見され、子どもたちは神隠しにあい、不審火による火事が起こる。街を行きかう人々の顔に笑顔はなく、空はいつでもどんよりとした雲が覆っている。…

古本購入記  2011年 12月

みなさま、あけましておめでとうございます。旧年中は仲良くしていただいてありがとうございました。本年も、お付き合いのほどよろしくお願い致します。 と、新年の挨拶をすませたところで先月の古本購入記なのであります。先月購入したのは12冊11作品。…