読書の愉楽

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ジョー・R・ランズデール「ダークライン」

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 本書は追想の物語なのである。五十代後半のスタンリーが過去の出来事を振りかえる形で物語が進んでゆく。時は一九五八年、十三歳のスタンリーは家族と共にテキサス東部のデューモントという町に引っ越してくる。そこで売りに出されていたドライヴ・イン・シアターを買い取って、家族で経営してゆくことになったのだ。アメリカ南部の田舎町。まだ黒人蔑視も根強かった時代。スタンリーはその町でさまざまな人生の教訓を学んでゆく。

 

 きっかけは家の裏にある森の近くでスタンリーが見つけた金属の箱だった。その中にはいくつかの手紙と日記が入っていた。女性の手になるその内容を調べるうちに彼は過去におきた凄惨な殺人事件のことを知ることになる。

 

 首を切断された少女、火事で死んだ少女、同時におきた二つの事件。スタンリーはその事件の真相をつきとめるべく独自に調べはじめる。美しく奔放な姉、すこぶる料理の腕がいい黒人のメイド、そして事件を調査するスタンリーを影でささえる黒人の映写技師バスター・アボット・ライトホース・スミス。濃く精彩をはなつ登場人物が織りなす輝いた日々。

 

 しかし、そこであらわになる事実は決して胸のすくようなものではない。輝いていた青春の日々の中にも闇の境界線は存在するのだ。

 

 本書はランズデールの作品としてはいたってノーマルな印象を受ける。回想の物語として機能しているので実際けっこうエグいことが書かれているのに、さほど衝撃は受けないのだ。好み的には前回読んだ「サンセット・ヒート」のほうが良かった。まさに前代未聞の展開にのけぞってしまった。でも、本書のノスタルジーに包まれた残酷な思い出もこれはこれでよい。やはりランズデールは素晴らしい。