トム・フランクリンといえば、昨年ハヤカワポケットミステリから刊行された「ねじれた文字、ねじれた路」が話題になった作家なのだが、これは読みかけてノレず一旦手放した。「二流小説家」とあわせてまた読むことになるだろうが、本書はそのフランクリンのデビュー作品集なのである。
本書には11の作品が収録されている。タイトルは以下のとおり。
本書には11の作品が収録されている。タイトルは以下のとおり。
「序 ハンティング・シーズン」
「グリット」
「シュブータ」
「トライアスロン」
「青い馬」
「デュアン・ファレスのバラード」
「小さな過去」
「ダイノソア」
「衝動」
「アラスカ」
「密猟者たち」
一読して驚いた。まったくもって素晴らしい作品集だった。本書で描かれるのはアメリカ南部の話。それもフランクリンにとって『僕の南部』とこだわるアラバマ州が舞台の話なのだ。以前からアメリカ南部の話には慣れ親しんできたが、フランクリンの描く南部はインディアンの伝承が息づいている古めかしいフォークナー的な呪縛にとらわれた部分と、大きな工場に象徴される産業と膨大な廃棄物に囲まれたなんとも不思議な味わいのある世界なのだ。特によかったのが本書の中でも長い部類の「グリット」と表題作だ。前者は賭博で返せる見込みのない借金を抱えてしまったグリット(サンドブラスト研磨用の細かい砂岩)製造工場の工場長が主人公。彼は借金を帳消しにするかわりに会社にだまって闇操業をするように強要されるのだが、それが思わぬ展開をみせる。出てくるやつらがみんな濃く息づいていて、おもわず前のめりになってしまうくらいおもしろい。悪党は生粋の悪党だし、思考はブッ飛んでるし、でもなんとなくユーモアも漂ってるし、とにかく最高だ。
表題作は密猟を生業としているならず者の三兄弟と彼らに弟子を殺された伝説の狩猟監視官が繰り広げる死闘を描いている。といってもこれも只のアクション物におさまっているわけでなく、そこにはディープな南部世界が濃密に広がっている。こちらも展開が読めない物語進行がとても新鮮だった。しかし、あんなので失明するなんて、いかにも南部的だ。ほんと、まったく予期せぬ展開だ。
その他の小品についても、みなそれぞれ味わい深いのだが、ぼくが特に注目したのが「衝動」という作品。これはなんとも奇妙な作品で、まったく物語が完結していないのだ。描かれていることの背後に膨大な物語が潜んでいる気配がして背中がぞわぞわしてしまう。こんな書き方もあるんだね。
最後にもうひとつ言及しておきたいのがトップの「序 ハンティング・シーズン」だ。これはフランクリンの少年時代を回想する話で、短編ではないのにまことに秀逸な短編に仕上がっている作品。回想が引きだすノスタルジーとそこに共存する緊張。そして現在にまい戻って出くわす一つの出来事。これらが合わさって読む者の胸になんとも形容できない複雑な感情が押しよせる。まさに逸品だ。
というわけでトム・フランクリンのデビュー作品集。たっぷりと堪能いたしました。これ、ほんと素晴らしい作品集ですよ。未読の方はぜひぜひお読みください。