読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

舞城王太郎「NECK」

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 これ2010年、夏の「NECK」の映画公開にあわせて刊行されていたのだが、読もう読もうと思いながらいままで読まずにきた。なぜなら本書に収録されている4編の話のうち3編がシナリオ形式で書かれていたからなのだ。それだけでちょっと億劫な気持ちになっていたのに、加えて本書は570ページ以上もある分厚さなのだ。だからいままで手をつけずにきたのだが、ちょっと気分転換のつもりで読んでみたら、これがすこぶる面白かったのである。どれぐらい面白かったのかいうと、このおそろしく分厚い本を遅読のぼくが一日かからずに読み終えてしまったのだから、これは凄いリーダビリティだったのだ。

 

 まず巻頭に配されているのが「a story」というタイトルの本書の中では唯一の小説。これは首の骨が普通の人より一個多い女の子が主人公。それがある日二つ多くなっているという不思議な展開をみせ、そこからとんでもない話に広がってゆく。一応ミステリの体裁を保っているが、それが普通のミステリでないのはいつものごとく。だがありえない世界を描きながら、颯爽とした登場人物を配し、それを日常の延長線上で処理進行してゆく奇妙な感覚はなんとも得がたい高揚をもたらす。

 

 次は舞台化された絵コンテ付きの脚本「the original」。野球チームの仲間四人が山奥で体験する恐怖を描いている。これと次の脚本「the second」はどちらも山奥と首だけ出して土中に埋められるというシチュエーションが同じなだけで、まったく違った話が描かれるのだが、よくまあこんなオリジナリティ溢れる不思議な話を描けるものだとあらためて感心してしまった。どちらもまったく救いのない話で、特に「the second」の方は、あのケッチャムの「オフシーズン」にも通じる禍々しさがあってなんとも忘れがたい。

 

 ラストの「the third」は映画の原案となった脚本。簡単にいってしまえば、人の恐怖心がお化けという実体を生み出しているのではないかということを幼少の体験から発想した女子大生がそれを実証するために実験を繰り返すお話。これ、映画観たくなるね。結構怖いんじゃないの?今度借りて観よう。

 

 というわけで、各編たいへん面白く読んだ。もしかしたら、いままで刊行された舞城作品の中で一番エンタメ要素の高い作品集なのではないだろうか。それほど、本書は面白かった。まだ読んでいない舞城ファンの方がいるのなら是非読んでみていただきたい。大満足の一冊となること請合いである。