読書の愉楽

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沢村鐵「封じられた街(上下)」

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 その街では不可解な事件が頻発していた。模様をつけるように配置された落ち葉に埋もれた動物の死骸が数多く発見され、子どもたちは神隠しにあい、不審火による火事が起こる。街を行きかう人々の顔に笑顔はなく、空はいつでもどんよりとした雲が覆っている。小学6年の織田史恵、同級生の立石秀平、吉住衛、中学一年の金盛創、その妹で小一の春菜、そして金盛家の飼い犬のゴン。彼らは街の変化を敏感に感じ取り、また自らも事件に巻き込まれてゆく。いったいこの街で何が起こっているのか?彼らは、危険をかえりみず街を包む暗い影に戦いを挑んでゆく。

 

 ぼくはこれを読んでる間中ずっと既視感にとらわれていた。本書の構造はキングのあの大作「IT」と同じなのだ。街をひとつのステージとしてそこで数々の怪異が起こり、それをひきおこしている大きな存在があり、子どもたちが敵に立ち向かってゆく。ま、キングの方は子ども時代と現代とのフラッシュバックで物語を重層的に語っていたが、起承転結は一緒だ。子どもたちの中にマイノリティーが含まれているところや水が関係するところも似ていたし、彼らが円陣を組むところなどは「IT」で下水道をくぐり抜けた子どもたちが河の中で手を取り合っている場面と大いにリンクした。
 
 だからぼくは読みながら、どうしても「IT」と比べてしまった。そういう視点でみると本書はいかにもジュブナイルの基本をおさえた無難な作品のように思えてきた。汚い部分も残酷な部分もないし、もちろんセックスなどは描かれない。安心して子どもに与えられる本だと思うし、力をあわせることの大切さや、困難に打ちかつ勇気や、希望をもち続ける意義などがわかりやすく描かれていて好感がもてる。
 
 しかしぼくとしては少し物足りなかった。いい作品だし子どもには読めと薦められるのだが、ダークファンタジーと銘うってあるからにはもう少し気味の悪い部分や暗い部分を強調して恐怖をあおって欲しかったというのが正直なところだ。