読書の愉楽

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皆川博子「祝婚歌」

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 三ヶ月ほど皆川作品から遠のいてしまっていたので、これまた、もねさんから頂いた皆川コレクションの一冊をありがたく読ませていただいた。

 これは、ほんとうに貴重な本なのである。だって、ネットで探しても見当たらないんだもの。ほんと、もねさんありがとう。

 で内容なのだが、本書には五編の短編が収録されている。

・「疫病船」

・「魔術師の指」

・「遠い炎」

・「海の耀き」

・「祝婚歌

 これらの作品はジャンルでいうなら、みなミステリである。純然たる謎解きミステリとして機能している作品はないのだが、広義に解釈するならばみなミステリなのだ。この中でも特に感心して、心に残っているのが巻頭の「疫病船」だ。これは物語の冒頭からグイグイ引きこまれる。なんせ四十一の女が、六十一の老母を扼殺しようとしたというのである。だが、これは未遂に終わる。この事件の国選弁護人になった男が殺害動機を聞き出そうとするのだが、娘は一切を語らない。どうして彼女は老母を手にかけたのか?

 いったいどんな動機がその裏に隠されているのだろうか?というのがこの話のミステリ部分なのだが、これにはやられた。いやいやミステリ的に素晴らしい動機だとかそういうのではなくて、いってみればこれは皆川版「砂の器」なのだ。事件の謎は過去の忌まわしい出来事に集約されていくのである。でも、こちらのラストは決して昇華されずに忌まわしいまま幕を閉じるのだが。

 続く三編は人間の邪まな部分をことさら強調したような作品が並ぶ。そして、そこには人間特有の不可解な行動や、不自然な行動がさりげなく描かれ舌を巻いてしまう。こういう捩れた心情を描かせたら、この人の右に出るものはいない。心理の妙というか、その場の臨場感に左右される人間の不可解な行動をこれほどうまく表現する作家を、ぼくは他に知らない。

 そして表題作。これは洗練と鮮烈が絡み合い、そこに淫蕩な血が流れ、凄惨なラストに雪崩れ込むような作品だった。これは「疫病船」に継いで印象深い作品だ。

 ということで、決して健全で清廉潔白な人々には薦められない作品ばかりだが、この域に達した作品を堪能できる自分がとても愛しい。

 ※ しかし、この米倉斉加年の表紙は怖いね。ウチの長女は、怖くて夢にみそうと言ってました^^。