読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

津原泰水「綺譚集」

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この人の本を読むのは初めてである。10年ほど前に「妖都」で一般向けデビューしたときに、綾辻行人小野不由美菊地秀行らからの絶賛がオビに書かれていて目を引いたのだが、触れることなくいままできた。途中「ペニス」なるなんとも大胆なタイトルの本が出たときは、思わず購入してしまったがそれもまだ読んでいなかった。

今回、短編集ということで本屋で何気なく手にとって解説を読んでみたら、著者自らが「一冊だけ残せるなら、これ」なんて言ってるのを知って、俄然興味がでてきた。試しに巻頭の「天使解体」を読んでみたらこれがなんとも凄い作品で、強烈なインパクトを与えてくれたのである。

本書には十五の短編が収録されている。それぞれ数ページの短いものなのだが、タイトルに相応しく奇妙で禍々しく、インモラルな物語ばかりだ。この人の描く世界は時にスプラッターの凄惨を極め、時に変態的でもある究極のエロスに徹し、常に尋常でない雰囲気をまとっている。技術的に巧緻な作品も多く、ミステリとしてもなかなか秀逸な「黄昏抜歯」や、非常に短いながらラスト一行の衝撃の鮮やかな「約束」、旧仮名遣いを駆使し村山槐多の青年時代を描き「新青年」に掲載されていたといわれても信じてしまいそうな「赤假面傳」などなど、バラエティに富んでいて楽しめる。しかし「異形コレクション」に掲載されていた三作は既読だったのに、憶えていないとはどういうことだろう。『屍者の行進』に収録された「脛骨」なんて、かなりインパクトの強い作品なのに。

上記に挙げた作品以外では、色情狂の姉と、その弟が祖父殺しを企てる「サイレン」、いじめられて自殺した少年の幽霊が学校を徘徊する「「夜のジャミラ」、レイプされて殺された書家の女弟子の死体が語る「玄い森の底から」などが印象に残った。しかし、全体的に残酷さと美のバランスがとれておらず、そういった点ではやはり皆川博子は偉大だなと感じた。彼女の域に達するのは並大抵のことではないと思う。

まあ、比べるのが間違ってるのかもしれないのだが。