この人がこれだけガンダムオタクだったとは知らなかった。なんせ、本書で紹介されるガンダム関係の記述は、そのまま研究書に書き写せるほど微にいり、細をうがつものなのだ。ぼくも一応ガンダム世代なので、初代のガンダムに関しては全作品テレビシリーズで観ていたし、ガンプラも一頃熱中して作っていた。どちらかといえば、プラモは「戦闘メカ ザブングル」のほうが好みだったけどね。だが、ぼくがやってたのは色付けをして組み立てるだけで、それ以上のことといえば汚し塗装するぐらいだった。だから継ぎ目にパテを盛ってペーパーがけして継ぎ目を消したりとか、一旦仮組みしてフォルムを検討するとかなんてプロみたいなことはしていなかった。それがどうだ、本書のその方面での生き生きとした描写は!
今野氏は生粋のガンダムオタクなのである。ガンダムシリーズはすべて網羅しており、時代設定や世界観、その他の背景の様々な設定まで細かく説明している。正直、ミノフスキー粒子などの用語くらいは馴染みがあったが、ガンダム世界の背後にこれだけ細かい設定があったとは知らなかった。ヒットするわけである。だが、そんなわけでガンダムにはまったく興味なく、ましてプラモの世界も全然関知しない向きには本書の内容は少々退屈かもしれない。要するに本書は人を選ぶ本なのである。だから、基本的に女性の方にはあまりオススメできない。話自体はタイトルにもなっている中学生の慎治君がいじめにあい、万引きを強要されたことによって萎縮してしまった世界を、プロのモデラーばりの技術を持つ担任教師と関係を深めることによって克服し、強い男として再起するという話だから、これはこれでなかなかに熱くおもしろい展開になっているのだが、いかんせんその道具立てが『ガンダム』と『ガンプラ』と『戦闘シュミレーション・ゲーム』だから、人を選んでしまうのである。終盤の方がいささか駆け足気味だったことを省けば、なかなかおもしろい本ではあったのだが。
※本書の表紙に写っているガンプラは今野敏氏本人がフルスクラッチしたものだそうだ。
フルスクラッチとは、模型を原型からすべて作ってしまう技術をさすのだそうで、いってみればゼロからすべて作ってしまうということ。これだけをみても今野氏のガンプラに傾ける情熱が伝わろうというものではないか。