読書の愉楽

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万城目学「プリンセス・トヨトミ」

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 久しぶりの万城目作品だ。「ホルモー」を読んだ頃は、まだ誰もが万城目って誰?って思ってた頃だったのに、どうでしょうこの出世ぶりは。第二作の「鹿男」はなんとなく気がすすまなくて読んでないのだがこの第三長編は、タイトルのインパクトと今までで一番分厚い500ページという本好きの心をくすぐる分量に、これは間違いないと感じて購入。う~ん、おもしろかった。

 話としてはいつものごとく奇想あふれる設定で、読んでいない人のためにもここで詳細を明らかにはできないのだが、超自然的な要素は介入しないものの、十分に大法螺かましてくれているのだ。

 だって、オビ見てもわかるでしょ?「大阪全停止」なんて書いてあるもの、とんでもない事態をまねくんだろうなと予想できるではないか。

 物語は、大阪の地に三人の会計検査院の調査官がやってくるところから始まる。国の金が無駄なく有効に使われているかどうかをチェックするという重要な使命を帯びたこの三人、実際ぼくも仕事柄この会計検査に関わることがあるのだが、ぼくが見るのはかなり年配の男性ばかり。ま、そこはね、話的にも盛り上がらないので、切れる男前、小太りのミラクルなドジ男、絶世の美女という絵になる取り合わせの三人なのだが、しかし登場場面からして明らかにコミカライズされてて可笑しい。
 
 これに対する大阪側の布陣は、性同一性障害の中二の男の子、その幼馴染の破天荒な女子、そして彼らを取り巻く家族たちである。この一見なんの関係もない二組の物語がやがて重なりあい、未曾有の事態へと突入していくのである。

 正直、「ホルモー」のような思い切った要素がない分、話的につじつまの回収が必要となり、そういった意味では少しこなれていない印象を受ける。だが、それぞれのパートをうまく描き分け見せ場を持続して話を繋げていく手腕はやはり安定していて、おもしろかった。ただ、それぞれの登場人物が生彩を放って魅力的なのに対し、一人、物語のキーマンであるお好みやのご主人だけが魅力に乏しかった。この人物をもっと効果的に前に押し出して、見せ場を盛り上げれば本書の印象はガラッと変わったものになったのではないだろうかと思われる。

 とまれ、本書はおもしろかった。久しぶりの万城目作品、堪能いたしました。