読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

北上次郎「新刊めったくたガイド大全」

この活字中毒者による1979年から1994年の15年間の読書ガイドは、もっぱら彼の独断と偏見に満ちていて、世の中一般の人たちに通じるかといえばそんなことはないと思う。だが、やはり北上次郎という名を見るだけで、そこそこの読書通は一目置いてし…

かれらの笑顔

足りないものを補って ぼくらはどんどん前に進んでいった 足は強張り、目もかすんでくる でも、かれらはぼくときみを頼りにしている ここで倒れるわけにはいかない 気持ちが先行する 足はついていかない どうにもできない焦燥感が さらに身体に負担をかける …

ピーター・ディキンスン「聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで 」

あのディキンスンが聖書を題材に物語を書いたというので読んでみた。ぼく自身は敬虔なクリスチャンでもなければ、神の存在自体信じてはいないのだが、聖書の物語は結構好きなのである。だって、聖書に出てくる数々のエピソードって、奇想に溢れててドラマテ…

古本購入記 2007年3月度

先の記事からだいたい一ヶ月たったので、また古本購入記を更新したいと思う。 だがその前に今日新刊書店に行ってきたのでちょっと書いておこうと思う。もちろん目的はあの「ハンニ バル・ライジング」である。冷静に考えて今買ってもすぐ読めないと判断した…

岡田利規「わたしたちに許された特別な時間の終わり」

「本が好き!」の献本第三弾である。 しかし、この本の書評はできることなら書きたくなかった。そう、ぼくはこの本まったく受け付けなかっ たのだ。はっきりいって読むのが苦痛だった。 本書は第49回岸田國士戯曲賞を受賞した「三月の5日間」を小説化した…

ウィリアム・トレヴァー「聖母の贈り物」

ジョイス、オコナー、ツルゲーネフ、チェーホフに連なる現代最高の短編作家とは、最大級の賛辞ではないか。どんなに凄い作品を書いているんだと少々身構えてしまう。しかし、これが読んでみるとすごく取っつきやすく、読みやすい。 トレヴァーの描く世界は至…

角田光代「東京ゲスト・ハウス」

主人公アキオは半年に渡るアジア放浪の旅から帰国してくる。しかし出迎えてくれるはずの彼女は空港に いない。そこで彼女の住まいに電話したアキオは、彼女が別の男と暮らしているという事実に直面する。 帰る場所がなくなってしまった彼は旅先で知り合った…

「有栖川有栖の密室大図鑑」

これはもう文庫にもなっているので知っておられる方も多いとは思う。本書のコンセプトは「ミステリ好きビギナーにもマニアにも楽しめる密室のガイドブックで、読んでも観ても楽しい本」なのだそうで、その条件に合致し、尚且つ有栖川氏がセレクトしていく過…

フラナリー・オコナー「オコナー短編集」

フラナリー・オコナーはアメリカ南部に住み、フォークナーに代表される南部特有の黒人差別、理不尽な暴力、神の存在意義などを固執した宗教観をからめて描き一時代を築いた短編の名手である。 彼女は生まれもっての障害者でもあり、39歳という若さでこの世…

小野不由美「屍 鬼」

小野不由美といえばホラーである。ぼくは全然読めてないのだが、ジュブナイルで出ていた『悪霊シリーズ』などは、その当時から怖いと定評があったし、本書の前に書かれた「東亰異聞」も結末はイマイチだったが、なかなか雰囲気のある読み応えのある作品だっ…

アンドリュー・テイラー「天使の遊戯」

四歳のあどけない少女ルーシーが誘拐される。初の女性副牧師として順風満帆とはいわないまでも、ようやっと己の信じる道を歩みだしたサリーは娘の誘拐という現実に打ちのめされる。娘が誘拐されたのは、自分の都合で娘を子守に預けたからだと自らを攻め苛む…

勇気をください

夏でもないのに光があふれる 鼻をかすめる薫風は ただそれだけで幸せを感じさせ 空洞なぼくの心を満たしてくれる 揺さぶられた拍子に転がりだした どこかに失くしてしまった思いやり 花を見て美しいと思う心 自分を犠牲にできる強さ やさしい笑顔 大きな壁を…

誼 阿古「クレイジーカンガルーの夏」

新人さんのデビュー作ということで荒削りな部分も目についたが、なかなかどうして直球で心に食い込ん でくるいい作品だった。 舞台は兵庫県南部のとある市。時代は1979年だから、ここに登場する中学生たちはぼくより少しお兄 さんだ。しかし、かぎりなく…

密室に佇む人たち

集まった人たちはみな呆けた顔をして所在なく立ちつくしていた。 天井の高い教会のような場所だ。しかし、窓はひとつもなく明かりはもっぱら室内に備えつけられている シャンデリアっぽい照明器具からのものしかない。調光機能がついているらしく、室内全体…

トマス・ハリス「ハンニバル」

3月28日にシリーズ最新作の「ハンニバル・ライジング」が発売されるということなので、前作にあたる本書を紹介しておこうかと思う。 この稀代の殺人鬼であるハンニバル・レクター教授が登場する人気シリーズは、世間の評判に対してぼくの評価はそれほどで…

唐十郎「佐川君からの手紙」

どこまでが虚構なのだろうか?と思った。なんとも幻想的な感触だった。 事件自体が非現実的なために、すべてが佐川君を中心に回っているメリーゴーランドのようだった。 本書を読んでこんなことを思った。なにもかも定められた歯車のように、すべてあるべき…

スティーヴン・キング「シャイニング」

ここらへんで、この本についても一言残しておこうかというわけで、本日はキングの初期代表作であり、ぼくがキングフリークになった原因でもある「シャイニング」について語ってみたいと思う。 これを読んだのは、もう15年以上前になるだろう。 当時、キン…

貫井徳郎「ミハスの落日」

貫井徳郎最新刊は短編集だった。それも5編の短編すべてが海外を舞台にした異色短編集だ。 収録作は以下の通り。 ◆ 「ミハスの落日」 ◆ 「ストックホルムの埋み火」 ◆ 「サンフランシスコの深い闇」 ◆ 「ジャカルタの黎明」 ◆ 「カイロの残照」 ご覧の通り、…

My本棚

以前に実家の本棚を記事にしたことがあったが、今回は本当のMy本棚をご紹介したいと思う。 ずいぶん昔に本を選別して棚に並べることを放棄しちゃってるので、おそらくiizukaさんが見れば 『キーッ!!!』となってしまうと思う(笑)。隙間に本を詰…

横山秀夫「半落ち」

この人の本は「出口のない海」一冊読んだっきりになっていた。警察物で有名なのにこれではいけない。 そこで出世作である本書を読んでみた。 よく知らないなりにこの人の警察物に関しては『派手さはないにしても、かなり読み応えのある小説』という期待を抱…

いまの君がいて

白々しい明かり 美しい横顔 何度も聞いたあの曲 いつまでも続いた ぼくらの時間 君は夢を語り ぼくは見つめ続けた わたしのこと好き? 大好きだよ 愛してる? 愛してるよ しあわせ? とっても幸せだよ たわいない会話 でもそれが 静かで熱い毎日の 一番幸せ…

酒見賢一「ピュタゴラスの旅」

「後宮小説」以来である。あの小説であれだけ感銘を受けたのに、なぜか疎遠になってしまった。そういうこともあるのである。本書は彼の第二作目であり、初の短編集である。収録作は以下のとおり。◆ 「そしてすべて目に見えないもの」◆ 「ピュタゴラスの旅」◆…

清水義範「シナプスの入江」

「国語入試問題必勝法」や「永遠のジャック&ベティ」を読んで、ああこの人はこういう感じの人なのか と一人合点してそれ以降は全然読んでなかったのだが、本書は純文学系の雑誌に連載されていたシリアス な作品だということなので読んでみた。 本書は記憶を…

武田武彦編「怪奇ファンタジー傑作選」

読書の大海に漕ぎ出したばかりの中学生ベックにとって、本書との出会いは衝撃的だった。集英社コバルト文庫はいわゆるジュブナイル系の老舗のようなレーベルだが、概ね女子に向けての作品ばかりで当時のぼくは見向きもしなかった。かろうじて夢枕獏の「ねこ…

芦原すなお「雪のマズルカ」

芦原すなおといえばデンデケデケデケで直木賞とった人くらいにしか認識がなかったのだが、そのうちミステリーを書くようになったなと傍目で流してたいしたことないんでしょと胡坐かいていたら、これが結構な評判なのでオロロと驚いて何か読まないといけない…

渡辺淳一「小指のいたみ」

渡辺淳一の本を読むのはこれで二冊目である。以前読んだ「白き手の報復」はほんと傑作揃いの短編集 だった。医療の現場を舞台にミステリとしても一級品の傑作短編集だと思った。 その本についての記事はこちら→白き手の報復 だから現在の愛欲にまみれた世界…

田舎の朝の事件

古い町並みはどことなく懐かしい雰囲気で、いつもなら知らない場所にいるという居心地の悪さに下腹がムズムズしてくるところなのだが、そういった不安感はまったくなく、どちらかといえば気分は高揚していた。 軒を連ねる家々は格子のはまった昔ながらの平屋…

プリーストリー「夜の来訪者」

普段一番縁遠い文庫が岩波文庫なのだが、2月の新聞広告を見ててとても気になったのが本書だった。 『息もつかせぬ展開』『最後に用意された大どんでん返し』。なんですと!これはミステリなのですか? すごく煽ってくれるじゃないの。戯曲ということだけど…