渡辺淳一の本を読むのはこれで二冊目である。以前読んだ「白き手の報復」はほんと傑作揃いの短編集
だった。医療の現場を舞台にミステリとしても一級品の傑作短編集だと思った。
その本についての記事はこちら→白き手の報復
だから現在の愛欲にまみれた世界を描く彼の作品はけっして読むことはないのだが、初期の頃の短編集
については折をみて読んでいきたいと思っていた。
というわけで本書なのである。本書には五編の短編がおさめられている。収録作は以下のとおり。
・「小指のいたみ」
・「ある心中の失敗」
・「酔いどれ天使」
・「脳死人間」
・「乳房切断」
・「疾風の果て」
ところがである。今回は目測を誤った。ここに描かれる作品たちは、後に開花する渡辺エロス&タナト
スワールドの萌芽が散見されるなんとも生臭い世界を描いていたのである。
しかし、まあ読み物としてはおもしろかった。サクサク読めてしまう。「酔いどれ天使」や「乳房切断」
はミステリといっても差し支えない出来栄えだった。でもノリが火曜サスペンスだったけどもね(笑)。
普通なら、短編集を読めば中に一つや二つ気に入った作品があるものなのだが、本書の中にはそれがな
かった。どれも普通におもしろく読めたが、これが好き!という作品はない。
あえて選べば、興味深かったのはラスト「疾風の果て」で不倫のカップルが馬の種付け場を見学にいく
話である。なかなか臨場感があっておもしろかった。馬の荒い鼻息としたたる汗が匂ってきそうなシー
ンだった。名篇の誉れ高いといわれている「酔いどれ天使」は、さほど感心せず、どちらかといえば陳
腐な印象だった。他もおしなべて同レベルの作品だった。
でも、これに懲りて渡辺短編はもう読まないでおこうとは思わなかった。これからも折りをみて読んで
いくつもりである。