読書の愉楽

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フラナリー・オコナー「オコナー短編集」

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 フラナリー・オコナーアメリカ南部に住み、フォークナーに代表される南部特有の黒人差別、理不尽な暴力、神の存在意義などを固執した宗教観をからめて描き一時代を築いた短編の名手である。

 彼女は生まれもっての障害者でもあり、39歳という若さでこの世を去った早世の天才であった。

 彼女の偉業は四年ほど前に筑摩から刊行された「フラナリー・オコナー全短編集(上 下)」でその全貌を知ることができる。しかし、この本は高い。もっと気軽にお手軽に彼女の作品に接したい向きには今回紹介する新潮文庫の「オコナー短編集」をオススメする。

 ここには、さすが選集だけあって短いながらも精髄ともいえるオコナー短編の最良の部分が収録されている。ぼくもこの短編集で初めてオコナーに接した。

 本書には7篇の短編が収録されている。これを読んでまず痛感するのは、やはり向こうでの宗教に対する信心の違いである。ぬくぬくとした日本に育った身としては、それは比較するのもおこがましいものがある。もともとアメリカ南部は宗教色の濃い土地なのだが、その偏執的なまでの宗教心には戦々恐々となる。宗教への信心の強さは、保守と排他をも身の内としてしまう。そこに絡んでくるのが人種差別とくれば、この短編集の持つ色合いはおよそ想像がつくのではないだろうか。

 はっきりいってその感覚は馴染み薄いものだ。南部の風土に根ざしたこれらの物語を読んで、拒否反応をしめす人もおられることと思う。しかし、これは暗部ではあるが目を逸らして通ることのできない人間の真実の姿でもあるのだ。

 オコナーは甘さを削ぎ落とし、そういった宗教、差別といった扱いにくい題材を正攻法で描いてゆく。

 時にそれはあまりにも残酷であり、あまりにも無情である。たった7篇の作品なのに心にのしかかってくるものはかなりハードだ。この薄い短編集を読んだ人にはオコナーの影が生涯つきまとうことだろう。本書にはそれだけの力がある。好き嫌い云々以前に、無条件に降伏させてしまうような力があるのだ。

 短い生涯を送ったオコナーは、若くしてこんなに激しい作品群を残した。凄い作家がいたものだ。

 愚かな人間と、愚かな行為。神はすべてお見通しなのである。