読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

朱川湊人「都市伝説セピア」

この人は非常に安定した書き手だと思う。リーダビリティに優れているし、各編趣向を変えて飽きさせない工夫がある。例えば巻頭に配されてる「アイスマン」。 これは主人公が過去を回想する形で物語が綴られる。彼は高校時代に精神的にバランスを崩してしまい…

霞流一「スティームタイガーの死走」

みなさん、この作品読んでます?霞流一ってはじめてなのだが、こういう感じなの? 結構おもしろいじゃないの。この本最後まで読んで「ああ、そうだったのか!」っていうサプライズがあるのだが、これで救われてるね。だって、密室殺人の謎にしても、ズル剥け…

菊地秀行「追跡者 幽剣抄」

幽剣抄の第二弾である。あいかわらずうまい。なんか、うれしくなってしまうね。昔はたいへんお世話になったけど、しばらく音信不通だった知人に久しぶりに再会したような驚きと感動がある。 やっぱりこの人、以前と同じいい人なんだなあって改めて再確認した…

アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」

ようやく読んだ。不滅の名作だということだが、ぼくはこれまったく受け付けなかった。なにが合わないって、主人公のガリヴァー・フォイルにぜんぜん共感できなかったのがまず一つ。それとこれはぼくに問題があるのだろうが、復讐の物語というのが基本的に好…

G・ガルシア=マルケス「エレンディラ」

ラテンアメリカではなんでも起こる。 空から年老いた天使が落ちてくるし、海の底にはもうひとつ都市があるし、指先ひとつで病を治す人がいるし、雲に向かって銃を撃ち、雨を降らそうとする人がいたりする。 およそ普通じゃない状況がさらりと語られる。みん…

ユークリッド・スライサー

敵は6人。気配を殺しているつもりでも、おれにはわかる。訓練して殺気は消すことができるが、相念まで消すことはできない。頭の中を空っぽにできる人間など存在しないのだ。 ジャンゴベリーの甘い香りが漂うこの山間の村で、いつになく鋭敏になったおれの知…

クリスチアナ・ブランド「暗闇の薔薇」

未読のブランド作品を横目にこの最後の作品だけは先に読んでしまった。なんか、変な感じである。 というわけでブランド最晩年の作品だそうで、これ書いたときはかなり高齢だったはずなのに、どうだろうこの完成度は。読者は開巻早々、作者の挑戦に直面するこ…

古本購入記

前回の古本購入記は1月24日だった。前回から今日までの約一ヶ月分をまた記録しておこうと思う。 まずうれしかったのが泡坂妻夫「毒薬の輪舞」である。これネットでは安く購入できるのだが、わざわ ざネットで買うほどの本でもないし古本屋で購入しようと…

森奈津子「西城秀樹のおかげです」

バイセクシャルだとカミングアウトしてる上に西澤保彦作品で主役をはってるというこの女性の作品を一度読んでみたいと思っていた。たんなる興味本位である。そこで本書に白羽の矢をたててみた。 なんとも人をくったタイトルではないか、いったいどんな話なん…

「小説のタイトルを考えてみました」

昨夜『感涙SFベスト3』なんて記事を書いたもんだから、久しぶりにSFの分厚いのを読んでみたく なって新刊書店に行ってみた。このところ英国SF界がなんだか騒がしいようで、早川文庫からも色々 おもしろそうなのが立て続けに刊行されている。気になっ…

パッション

泣けるくやしく朽ちる恋 ほどなくためらう指と指 待つことに慣れた気弱なぼくは 責める言葉少なく、ため息混じりに微笑む いつからか君はぼくを殴るようになり 心は寂れて飛びのるスターライト 君が哀しい 大人はいつも泣いている 心震わせ泣いている ハニー…

「SF感涙本ベスト3』本学大学SF学部レポート

少ないながらも細々とSF畑の作品を読んできたのだが、その中で三冊だけホロリと涙を流したごっつぅええ話というのがあった。ほんと偏った読書歴の上に今の自分があるのは重々承知の助、SFを読んでるといってもアシモフ、クラークの作品はいまだ一冊も読…

D・R・クーンツ「ウォッチャーズ」

前にも書いたが、ぼくはクーンツのよい読者ではない。さすがにベストセラー作家の看板を背負ってるだけあって話自体はおもしろいと思うのだが、良く言えば『クーンツ節』悪く言えば『類型を脱してない』その典型的なパターンに飽き飽きしたのだ。 彼は善良で…

宇月原晴明「天王船」

本書は短編集である。「黎明に叛くもの」のC★NOVELS版は、四冊に分冊されて出版されたのだが、そのとき外伝として各巻に書き下ろされた短編を一冊にまとめたのが本書なのである。「黎明に叛くもの」外伝ということだが、これまでの宇月原作品すべてに…

福澤徹三「すじぼり」

この人の本は、なんだかんだいって結構読んできた。でも、本書のようなホラー要素のない本は初めて でもあり、期待と不安の入り混じった複雑な心境で読み出したのだが、これが結構読ませるのである。 でも筋書きは、まんまVシネだった。リアルに怖いゴクド…

水鳥

水管橋の上に大きな水鳥がとまって いつになくその姿に惹きつけられたぼくは 飽くことない欲求の眼差しで 穴のあくほど、その水鳥を見つめ続けていた その鳥は長い嘴と大きな羽をもった小憎らしいくらい優美な姿で じっとぼくを見返している ぼくたちの周り…

井上ひさし「吉里吉里人」

この本、高校のときに学校の図書館に単行本が置いてあったのだが、それを見てぼくはなんと分厚い本な んだと驚いたものだった。最初はそう思ったがなぜか日増しにその本に対する思いが募っていき、内容も よく知らないで、高校生の分際で、その大きい本を購…

「秘密の動物誌」荒俣宏監修

みなさん、この本ご存知?この本が出版されたのは1991年だから、もう16年かあ。ということは知らない人も多いかな? 本書はとある学者が集めた奇妙な生き物についての写真集みたいなものである。表紙の写真ではわかりにくいと思うが、中央になんか写っ…

丸太男とチビ助

旅の途中、裸山に差しかかる峠を歩いていると前から奇妙な人物が馬に乗ってやってきた。どこが奇妙なのかというと、まだ遠目なので不確かなのだが、どう見てもその人物の顔から太い丸太が飛び出しているのである。信じられない光景だがどうも間違いないよう…

帚木蓬生「閉鎖病棟」

帚木 蓬生といえばぼくはこの一冊しか読んでないのだが、いろんなジャンルに挑戦する創作に意欲的な作家という印象が強い。医療ミステリーというテリトリーを離れて国際謀略物や歴史サスペンスなんかも手掛けててホント器用な人だなと思っている。 本書はそ…

リドリー・ピアスン「深層海流」

この人はこれ一冊しか読んでないのだが、本書を読んだ限りではなかなか器用な作家だという印象を持った。タイトルからは予想もつかないが、本書で描かれるのは残忍な連続殺人事件だ。 シアトル市内で八件の連続殺人事件が起きる。若い女性ばかりを狙ったその…

森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

恋焦がれたといってもいい本書をようやく読み終えた。まさしく期待どおりの作品だった。 近年稀に見るキュートでポップな作品ではないか。一人の女性を追い求め続けるという単純な話をこれ だけおもしろく、また奇怪に描いているところが素晴らしい。まして…

山田風太郎「室町少年倶楽部」

忍法帖から明治物を経て、山田風太郎が最後に辿りついたのが絢爛たる妖しの室町時代だった。 乏しい知識を総動員してぼくなりに室町時代を考察してみるに、あの時代とは戦国の世と江戸時代とが巧みにブレンドされた時代のように思えるのだが、どうだろうか?…

山口雅也「ミステリー倶楽部へ行こう」

もともとこの人はワセダ・ミステリ・クラブにいた人で、「生ける屍の死」で大々的にブレイクする前は主に評論やミステリの紹介をしていた人だった。小説も「13人目の名探偵」(←後の「13人目の探偵士」)しか書いてなかった。そんな彼のことを知ったのは…

リチャード・マシスン「奇術師の密室」

みなさんは「探偵スルース」や「デストラップ・死の罠」という映画をご存知だろうか?どちらも古い映画なので、もしかすると知らない人も多いかもしれない。「探偵スルース」は1973年、「デストラップ・死の罠」は1983年の作品である。もう、一昔前…