この本、高校のときに学校の図書館に単行本が置いてあったのだが、それを見てぼくはなんと分厚い本な
んだと驚いたものだった。最初はそう思ったがなぜか日増しにその本に対する思いが募っていき、内容も
よく知らないで、高校生の分際で、その大きい本を購入し一心不乱に読みきった。
有名な本なので内容の詳細は必要ないだろうと思われるが一応説明すると、東北の寒村がある日突然独立
宣言をしてしまうのだ。たった四千人ぽっちの小さな村が独立宣言をしたと聞いて日本政府も何かの冗談
だろとタカをくくっていたのだが、どうやら本気で独立するつもりらしいと気づいた時には後の祭り。躍
起になって阻止しようとする日本政府に対し吉里吉里国は思いもよらない反撃にでてくる。
というのが大雑把なあらすじだ。だが、このあらすじだけでは本書のおもしろさ、凄さはまったく伝わら
ないだろう。
本書のおもしろさは、作者井上ひさしがこの茶番劇を大真面目にシミュレートし、また大いに悪ふざけを
して真面目に茶化している点にある。また、本書は1981年度の日本SF大賞を受賞しているのだが、
SFに限らずミステリや謀略小説、ユーモア小説、アクションもあり、エロチックなところもありと、ま
さしく何でもあり的な無節操なおもしろさなのである。
それに付け加えて、一国を運営していくという大それた試みには数々の問題が浮上してくるのだが、上記
にあげた対外対策も然り、経済流通問題然り、自給自足に伴う農政問題然り、また医療や教育に関する
様々な試みなどなどありとあらゆる問題に多面的に取り組まねばならないのだが、そういう部分での作者
のシミュレートには目を瞠るものがある。かといって、決して小難しいことが書かれているわけでもな
く、吉里吉里人たちがああだ、こうだと方言でおもしろおかしくやりあっているのを読んでるうちに自然
と消化できる仕組みになっている。
また、吉里吉里人たちが話す吉里吉里語は国が制定した公用語なのだが、作者はここでも大真面目に方言
を愛情をもって茶化し驚くべき言語マジックをみせてくれるのである。
たった一日の話なのに、この充実した内容はどうだろう。そして驚くべきことに本書の時系列は我々読者
の時系列ともリンクしている。だから本書をノンストップで読み進めたら24時間と少しで読み終わるな
んて話も聞いたことがある。ぼくは試してないので真相は知らないのだが^^。
とにかく本書は傑作だ。小説としてのおもしろさに溢れている。本書が日本文学史上に残る記念碑的作品
だということは言をまたないであろう。