恋焦がれたといってもいい本書をようやく読み終えた。まさしく期待どおりの作品だった。
近年稀に見るキュートでポップな作品ではないか。一人の女性を追い求め続けるという単純な話をこれ
だけおもしろく、また奇怪に描いているところが素晴らしい。まして、本書の舞台は地元京都である。
興がのらないはずがないではないか。まあ、それを差っ引いても本書はおもしろいのだが。
まず、本書を魅力的にしているのは渦中の人である黒髪の乙女だ。彼女の天然で屈託のない超自然体は
子供がそのまま大きくなったような純真さと好奇心の塊として描かれ、男のぼくからみればことさら魅
力的に映った。一方、彼女に恋する先輩の『私』は、これまた健全たる青年の苦悩と焦燥に煽られなが
らも一途に突き進んでいく姿にとても好感がもてた。
ようするに、この本には嫌な人物が一人も登場しないのだ。だから、あれこれ思い煩って心配する必要
もないし、あっちやこっちに意識をとばしてハラハラする必要もない。ただ単純に物語を追い、全身全
霊で二人の逢瀬を待ちわびるのみなのである。
しかし、読ませる。これがめっぽうおもしろい。なぜなら作者がそこに奇怪極まるガジェットをこれで
もかと詰め込んでいるからだ。偽電気ブラン?韋駄天コタツ?偏屈王?ジュンパイロ?
う~ん、よくこれだけ次々と奇怪なるものを思いつくなと感心するばかりだ。
これら様々な要素が絡まりあって、本書は唯一無二のいままでみたことのない世界を描いてくれるので
ある。この人の作品はこれが初めてだったのだが、これ、一皮剥けた作品じゃないのかな?
作者も確かな手応えを感じながら書いたのではないかと思う。なぜなら本書にはそう思わせる安心感と
いう土台の上に構築された様式美を感じるからだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく本書は傑作だ。読んで意識がショートし、心が和み、気分
が晴れる。そんな小説だった。オススメである。