読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

D・R・クーンツ「ウォッチャーズ」

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 前にも書いたが、ぼくはクーンツのよい読者ではない。さすがにベストセラー作家の看板を背負ってるだけあって話自体はおもしろいと思うのだが、良く言えば『クーンツ節』悪く言えば『類型を脱してない』その典型的なパターンに飽き飽きしたのだ。

 彼は善良で希望のある勇敢な主人公が巨大な悪の権化に追われ、最終的に対峙するという構図に固執する。未知なるものへの恐怖を克服して最後には主人公が勝利してハッピーエンド。

 最近作は読んでないのでなんともいえないのだが、少なくともクーンツが大々的に紹介されだしたときの代表作と目されるほとんどの作品がそのパターンで描かれていた。だから、ぼくは早々と見切ってしまったのである。「水戸黄門」や「遠山の金さん」と同じで、それが『待ってました』と楽しめるのなら問題ないのだが、ぼくはもういいやと思ってしまったわけだ。

 だから本書「ウォッチャーズ」も読まずにきてしまった。当時、この作品は確か「このミス」でも4位くらいにランクインしてたのではなかったか?世間の評価は概ね良好で、この作品のことを悪くいう人はいなかったと思う。にもかかわらずぼくは読んでなかった。それが少し前、ゆきあやさんに本書を強力プッシュされて読んでみる気になった。

 おもしろかった。集中力のないぼくが、本書は一気に読んでしまった。ここには人間の良心をくすぐる要素がこれでもかというくらいに詰め込まれている。本書の構図もいわゆる『クーンツ節』だ。得体の知れない迫りくるものから逃げる主人公たちが描かれる。だが、本書にはそこに愛すべきゴールデン・レトリバーが加わるのである。この知能を得た天才犬の存在は大きい。この天才犬をめぐって争奪戦が繰り広げられるのだが、そこは職人作家クーンツ、随所に彼の技巧が発揮されてて微笑ましい。

 多視点によるカットバックの手法は言うに及ばず、敵役を2パターン用意しそれがラストに向けて集約される工夫でサスペンスを盛り上げるなんていうのは常套として、さらに「得体の知れない」敵の正体を襲われる側の視点で描くことによってぼかし恐怖を盛り上げてゆく。作者の狙いがピンポイントでうまくハマっているので、わかっていてもついついのせられてしまう^^。このへんはさすがうまいもんである。そしてラスト、物語は読者を裏切ってしまう展開をみせるのだが・・・。

 涙までは誘わなかったが、なかなか良かったと思う。久しぶりに読んだクーンツだったが、正直期待以上だった。愛すべきゴールデンのアインシュタイン。彼の存在は、世のすべての動物好きのハートをくすぐるに充分な存在だ。本書を読めば、彼が愛しくて愛しくてたまらなくなること請け合いである。

 これを読むきっかけを与えてくれたゆきあやさん、どうもありがとう。