読書の愉楽

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菊地秀行「追跡者 幽剣抄」

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 幽剣抄の第二弾である。あいかわらずうまい。なんか、うれしくなってしまうね。昔はたいへんお世話になったけど、しばらく音信不通だった知人に久しぶりに再会したような驚きと感動がある。

 やっぱりこの人、以前と同じいい人なんだなあって改めて再確認したときのような安心感がある。そういった感慨をしみじみと噛みしめながら、本書を読んだ。

 本書も前回と同じ構成で五つの短編と、その合間に挿入される四つの掌編から成り立っている。

第一話「童子物語」

逢魔ヶとき

第二話「介護鬼」

背後の男女

第三話「飲み屋の客」

夜の使者

第四話「妖剣」

坂の上の死体

第五話「追いかける」

 収録作は以上のとおりである。今回は前回よりも背筋の寒くなる話が印象に残った。一番怖かったのはラスト「追いかける」に登場する幽鬼たちである。ここに登場する三人の幽鬼たちのエピソードが怖い。何回読み返しても怖い。もし自分がこういう場面に遭遇したら、と思うだけで下品な話だが金玉が縮みあがってしまう。もし、読まれる方がおられたら確かめていただきたい。丁度289ページから290ページにまたぐ場面である。

 しかし、この「追いかける」にしても第一話の「童子物語」にしても、ただの怪異譚にはおさまりきらない話の広がりをみせるから驚いてしまう。このへんの呼吸は菊池秀行の真骨頂というべきものだろう。おそらく他の作家が書いていたら、こういう風には展開しないはずだ。

 第二話「介護鬼」も深い意味で恐ろしい話だ。怪異譚としても恐ろしいが、人間本来の業としても痛恨の一撃をあたえられる話である。ラスト近くの介護されている妻の告白が心底恐ろしい。

 第三話「飲み屋の客」も人間の怖さを思い知る話だった。幼い頃に武士の手討ちによって両親を亡くした少女が飲み屋を営む伯父夫婦に引き取られ店の手伝いをしながら大きくなり、今では誰もが認める看板娘に成長していた。そこに現われるよそ者の侍。娘はその侍に恋心を寄せる。しかし、その侍にはどこか常人離れした雰囲気がつきまとっていた・・・。これは娘の告白に信じられないおもいをする話だった。う~ん、そうくるかぁと唸ってしまった。だからこそ、この話はあっけらかんとせつなく心に残るのだ。

 かように本書もまた軽く読めてしまうにもかかわらず、読み応えがあり尚且つ印象深い作品集となっている。風太郎以外にこのフレーズはあまり多用しないようにしているのだが、ここでは使わせてもらおう。恐るべし菊池秀行!