読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

山田風太郎「室町少年倶楽部」

イメージ 1

 忍法帖から明治物を経て、山田風太郎が最後に辿りついたのが絢爛たる妖しの室町時代だった。

 乏しい知識を総動員してぼくなりに室町時代を考察してみるに、あの時代とは戦国の世と江戸時代とが巧みにブレンドされた時代のように思えるのだが、どうだろうか?

 将軍家は義満の時代から花の御所や北山第を建築、栄華の限りを尽くし八代将軍義政の世にはさらに豪奢な生活に明け暮れ、その政治に携わることない無責任さが応仁の大乱をひき起こした。

 本書には二編収録されているのだが、表題作はその義政を描いた好編である。義政が三春丸と呼ばれていた幼少から、応仁の乱が起こる晩年までを描いている。

 いかにもそつがなく、流れるように読みすすめられる小説の見本のような作品だ。室町の時代が内包する狂気が絢爛さの中でにぶく光っており、まだ呪術や妖魔が信じられていた時代の雰囲気がプンプン匂っている。

 もう一編の「室町の大予言」は、義政の父にあたる義教が主人公。義教は三代将軍義満の三男であり、本来なら将軍職につくことのない人生を送るはずだったのだが、五代将軍義量(義教の兄である四代将軍義持の子)の急逝によりくじ引きで将軍職におさまった変り種である。

 風太郎はこの歴史的事実をもとに、謎の予言書「本能寺未来記」なるものを配し室町の世に魔界を現出した。もうここまでくると曲芸に近い技の冴えをみせている。さすが風太郎。晩年の作品にもかかわらず、その質は衰えることがない。魔界としての室町を縦横無尽に書き尽くし、艶やかで凄惨な印象を与えて秀逸である。ほんと風太郎って小説の神様なんだなぁ。