読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-07-01から1ヶ月間の記事一覧

扇智史「永遠のフローズンチョコレート」

ほんとうに、ライトノベルを見直しつつあります。すべてを肯定するわけではないが、中には大人の鑑 賞に耐えうる作品もあるんだということに、いまさらながら気づいた次第。 本書は表紙が良かった。これはおじさんでも堂々と買えるくらいのライトノベルにあ…

幸せな空、悲しい空

昨日の空がとても悲しい あふれた感情がいまいましい なんて奴だ、と思われてもかまわない 嘘をつくくらいなら、死んだほうがマシだ 足元を流れる汚い川に 幸せの残骸が浮かんでる ぼくたちは、いまもこうして生きている 打ち捨てられた、ゴミの上で一生懸命…

スティーヴン・キング「ザ・スタンド」

アメリカ本国で本書が刊行されたのが1978年。そのときは出版社の意向で数百ページが削除された状態で刊行された。その後1990年に無削除の完全版が刊行されたが、日本で翻訳出版されたのは2000年になってからである。 本国アメリカではこの作品を…

高野秀行「ミャンマーの柳生一族」

この著者の本は、はじめてなのだが強烈なタイトルに惹かれて思わず手にとってしまった。 ミャンマーに柳生一族?はて?伝奇小説か?本を開く前に昂ぶる期待を抱いてしまったくらいだ。 しかし、よくよく確かめてみるとどうも本書は旅行記のルポらしい。 著者…

アイラ・レヴィン「死の接吻」

アイラ・レヴィンは、天才型の作家である。彼はミステリ、ホラー、サスペンスそれぞれのジャンルにおいて傑作をこの世に残した。以前紹介した「ブラジルから来た少年」はサスペンス物の代表作だが、彼はそこに新たな要素を盛り込み、後世に残る作品とした。 …

乙一「銃とチョコレート」

初のミステリーランドを、このとても素敵な表紙の「銃とチョコレート」で読めたことがうれしい。 しかしこの本、製本が素晴らしいではないか。子ども向けの選集のクセしてやけに高いなと思っていたが、実際手にしてみてこれなら仕方ないなと思った。表紙から…

ディクスン・カー「夜歩く」

いわずとしれた、カーのデビュー作である。 ここで断っておきたいのだが、ぼくは当初カーを英国人だと思っていた。なぜかしら、そう思い込んでいた。彼の創造した二大探偵のフェル博士とH・M卿が英国人だったというのもあるのかもしれないが英国に移り住む…

眠り男

眠たい 眠りたい ゆっくり、なにも考えず 眠りたい 頭が痛い すごく痛い 割れそうに痛い 暗い とても暗い なにも見えないくらい真っ暗だ やわらかい草の上に寝転んで 真っ青な空を見上げたい やがて雨が降って、ずぶぬれになっても そのままでいたい ずっと…

山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」

これだけ荒唐無稽な話が好きだ。 本書の主人公田浦は中年という人生の折り返し地点にたって、はじめて本当に愛すべき女性に出会う。 この女性が不思議な存在だ。病院の衝立越しに出会ったこの女性はどんどん若返っていくのである。 それは文字通りの若返りで…

ラリイ ・ワトスン 「追憶のスモールタウン」

過去の出来事を振り返る時、当人はもちろん成長しているわけだから当時の状況を第三者的な目で判断できるわけで、そうするとそこに事実を語る以上の様々な解釈がうまれる。当時の心情、そして今になって思う心情。リアルタイムでなく回想することによって物…

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」

この本を読んだのはたいそう昔のことなのだが、久しぶりに大笑いしたミステリとして記憶している。 島田作品としては軽いタッチの作品であり、トリックもさほど感心するものではなかったが、無類に楽 しいミステリだった。漱石とホームズの邂逅というアイデ…

夏を思い出すもの

夏を思い出すもの ラジオ体操 麦わら帽子 冷えたコップについた水滴 舌を出してる猫 あなたの知らない世界 しょうがをどっさりかけたきゅうりの古漬け 川遊び 待っていてくれた彼女 大きな入道雲 クヌギの木 逃げ水 ホームランバー 誰もいない教室 先生と行…

苦手なもの『あいうえお』

偉大なるブログのアイディアメーカーであるCuttyさんが始められた『お気に入りあいうえお』。 そこから波及して今度は『苦手なものあいうえお』なる秀逸な企画が立上がりました。 Cuttyさんの記事はここ→あいうえお第2弾 『お気に入り』は参加しなかったの…

ローレンス・サンダース「ルーシーの秘密」

この本も絶版になってると思う。ぼくが持ってるのは1987年の徳間文庫だ。 サンダースの本は、世評高い大罪シリーズは未読で本書とデビュー作の「盗聴」だけを読んだ。 「盗聴」は、おもしろい題材だったがいまひとつノレなかった。いま読めばさらに古臭…

神様はいるのかな

つまるところ、そういうことなのかな 情に流され、正直でいるものが馬鹿を見る 平気で嘘をつき、私利私欲にまみれたものが生き残る ねえ、父さん 神様っているのかな? 世界では罪のない子がたくさん死んでるよ なんの影響も持たない無害な人が殺されてるよ …

米澤穂信「愚者のエンドロール」

ライト系が続きます^^。こういう本は気軽に読めるからいいです。 いまミッシェル・フェイバーの「天使の渇き」という本を読んでいるのだが、これが上下二段組で80 0ページを超すというすごいボリュームなのだ。かの「五輪の薔薇」と同じ分量だというの…

桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

ライトノベルの中でも、すこぶる評判がいいので読んでみた。三十も後半のおっさんが、こんな可愛ら しい表紙の本を買うのは少々勇気がいったし、多分店員の女の子もぼくのことを変態だと思ったのに違 いないが、気になって仕方がなかったのだ。 物語は鳥取の…

岡崎隼人「少女は踊る暗い腹の中踊る」

えーっと、一応国内ミステリの書庫に分類したけど、これはミステリじゃないよね? 犯罪が描かれているという点ではもちろんミステリの範疇だけど、実際本書にミステリとしてのサプライ ズはない。おそらく第二作も書かれるんだろうが、この終わり方からみる…

筒井康隆「わが良き狼」

筒井康隆の短編集といえば、本書なんかより「毟り合い」「走る取的」「五郎八航空」などの傑作目白押しの「メタモルフォセス群島」や、これまたストレートなSF舞台で繰りひろげられるグロでエキサイティングな話ばかりの「宇宙衛生博覧会」や筒井短編の最…

土屋隆夫「不安な産声」

千草検事シリーズは本書で終わってしまう。千草検事のシリーズは本作を含めて5作品書かれている。 「影の告発」、「赤の組曲」、「針の誘い」、「盲目の鴉」、そして本書「不安な産声」である。 本書以外の本は、まとめて読んだ。中でも一番好きだったのは…

ミューリエル・スパーク「ポートベロー通り」

スパークは英国を代表する女流作家である。しかし、いま現在スパークの作品を気軽に読むことはできない。以前は多く出てた翻訳本がいまは軒並み絶版となっている。 本書も然り。この本はスパークの幻想短編集なのだが、あの社会思想社の教養文庫から出ていた…

福澤徹三「亡者の家」

ホラーと銘うってあるが、本書はホラーとしては少しインパクトに欠ける。 超自然的要素は、まったく出てこない。 ここで少し考えてみたいのだが、優れたホラーとはいったいどういうものをさすのだろう?この場合のホラーとは、怖さの点で優れたホラーという…

吉村昭「羆嵐」

日本は獣害というものには、さほど縁のない国だと思っていた。 命にかかわる獣害なんて、猛獣の少ない日本にはあまりないもんだと思っていた。 でも、そんな猛獣の少ない日本で最大の脅威なのはやはり熊なのだ。 300キロや500キロもあるやつに襲われれ…

ウィリアム・ゴールディング「蠅の王」

時として人間ははてしなく愚かになり、またおそろしく弱い者になる。 それは人生最大のピンチではなくて、とてもちっぽけな事がきっかけとなる場合が多い。 心の暗部というものがあるなら大人はそれを隠そうとし、何かのきっかけがあってこそ一気に爆発し、…

橋本治「愛の矢車草」

普通でない愛の形を描いている短編集である。 これが意外なメッケもんだった。まず表題作の「愛の矢車草」。ここでは小学生で父親になってしまっ た男の子を取り巻く世界が描かれる。何が素晴らしいといって、ここに登場する人物たちは自分の役割 をこちらの…

古本と梅ジュース

また古本を買ってしまった。う~ん、これは病気だな。いってみれば症候群に近いものなのかもしれな い。それにしても、これだけ買っててまだ欲しい本があるということに驚いてしまう。どんどん本が増 えていってるのに消化が追いついてないから未読本がたま…

フレデリック・ポール「ゲイトウェイ」

太陽系、金星の小惑星で千隻あまりのスペースシップが発見される。しかし、そこにはそれらを使っていた者の痕跡は何も残ってなかった。人類はその者たちをヒーチ-人と名づけ、手がかりなしにスペースシップの操縦法を模索する。やがて試行錯誤のすえ、なん…

江戸川乱歩「孤島の鬼」

乱歩は、代表的な作品をいくつか読んだ。彼の作品は破綻していることが多い。特に長編でその傾向が 見られる。時代背景や乱歩自身の性格など様々な理由はあったのだろうが、どうも彼の構成力に問題が あったのではないかと思われる。ミステリとしての完成度…

君が忘れていったもの

片付け上手な君が たったひとつ忘れているもの 歯を磨きながらしゃべったり 人の話を聞かなかったり 寝ているときに大きな寝言でびっくりさせたり いろんなことで笑わせてくれる君だけど 部屋の掃除だけはきちんとしていた君 そんな君が忘れていったもの そ…

イアン・マキューアン「最初の恋、最後の儀式」

そういう事。 デビュー当時のマキューアンは、とんがっていたのだ。彼がこの第一短編集を出したのは27歳の時である。そんな彼もいまでは58歳、英国で押しも押されぬ文学界の重鎮となっている。 本書には、八つの短編がおさめられている。 どれもインパク…