読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

橋本治「愛の矢車草」

普通でない愛の形を描いている短編集である。

これが意外なメッケもんだった。まず表題作の「愛の矢車草」。ここでは小学生で父親になってしまっ

た男の子を取り巻く世界が描かれる。何が素晴らしいといって、ここに登場する人物たちは自分の役割

をこちらの期待通りに演じてくれるのである。小学生で子持ちになってしまった少年の大人びた苦悩、

その少年の母の献身的な順応ぶり、少年の父の自分の過去を振り返ってのやり場のない劣等感と嫉妬か

らくる息子への恐怖。そしてあどけない赤ん坊。そのシチュエーションが、かなり読ませる。この作品

には感心してしまった。

その他の作品も、あの『桃尻娘』にみられた青春の苦悩と、おふざけが混じりあった「愛の陽溜り」や

、下着泥棒を描いているのに妙にほのぼのとさせられてしまう「愛の狩人」や、倒錯的なレスビアンの

世界を描いたほのかに物悲しくてせつない「愛の牡丹雪」など、すべてなにかしら残るものがあった。

期待以上の作品だった。尚、本書には各編に高野文子しりあがり寿・奥村靫正・吉田秋生のイラスト

がついている。なかなか豪華な顔ぶれだ。当時はまったくしらなかったのだが^^。

続編の「愛の帆掛舟」はまだ読んでいない。こちらも変わったシチュエーションの愛が色々詰まってる

みたいである。でも、「愛の矢車草」ほどの傑作は期待できないんだろうなあ。