読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

乙一「銃とチョコレート」

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 初のミステリーランドを、このとても素敵な表紙の「銃とチョコレート」で読めたことがうれしい。

 しかしこの本、製本が素晴らしいではないか。子ども向けの選集のクセしてやけに高いなと思っていたが、実際手にしてみてこれなら仕方ないなと思った。表紙から、中のデザインから、イラストから、果ては紙のカットの仕方まで、本作りの愛情が伝わってくるような本だ。

 で、久々の乙一作品なのだが、これには参った。ぼくが少年の頃にこういう本に出会っていたら、おそらくもっと早くに本好きになっていたことだろう。

 怪盗と、名探偵と、宝捜し。いってみれば定番のワクワク要素で本書は構成されている。しかし、ただのハラハラドキドキだけではなくて、そこには人間の醜い部分もしっかり描かれている。いわば毒の部分だ。これがないとおもしろくない。これは大人も子どもも変わりない。毒がなければ、おもしろくないのだ。ぼくもそうだったのだが、ディズニーの描く「ピノキオ」が完全に毒を抜いてしまった作品であるがために、コッローディの原作はすこぶるおもしろい本だということを知らない人は多い。ピノキはみんなが思う以上に自分勝手で、愚かな悪童だ。だから手痛いしっぺ返しを幾度も体験する。しかしそこがおもしろいのだし、またそれを読んで自分を戒めることにもなる。この世は厳しい世界なんだよ、信じていたことが簡単に覆されることもあるんだよ、と教えてくれるのだ。

 そういった意味で、本書はなかなか素晴らしい展開をみせる。おお、こうくるか!とうれしくなってしまう。乙一の筆は、そこらへんを容赦なく書きつくす。まさにそういった意味でビルドゥングスロマン的な面もあるのである。

 とにかく、おもしろかった。巧みな伏線もあったりして、やはり乙一ただものではない風格がある。

 他のミステリーランド作品も追々読んでいこうと思う。もちろん、乙一作品もね。