乱歩は、代表的な作品をいくつか読んだ。彼の作品は破綻していることが多い。特に長編でその傾向が
見られる。時代背景や乱歩自身の性格など様々な理由はあったのだろうが、どうも彼の構成力に問題が
あったのではないかと思われる。ミステリとしての完成度も然り。彼の作品にトリックのおもしろさを
求めてはいけない。
現代の作品レベルから見れば、乱歩の小説はかなり稚拙だ。それでもいまだに人気が衰えず、稚拙だと
感じながらも最後まで読み通させてしまうのはひとえに彼の描く世界が魅力的だからである。
そんな彼の長編作品の中で、最高におもしろかったのが本書「孤島の鬼」だった。
本書では乱歩の怪奇趣味がこれでもかというくらいに詰めこまれ、後半のサスペンスなどはいまでも色
あせぬおもしろさである。
物語は天涯孤独の女性木崎初代と同僚である蓑浦金之助のロマンスから始まる。しかし木崎初代は密室
で心臓を一突きされて殺されてしまう。恋人を殺された蓑浦は、彼女が命の次に大切にしていた先祖の
系図をもとに友人の深山木幸吉に探偵を依頼するのだが、その深山も衆人環境で殺害されてしまう。
蓑浦は、わずかな手がかりをもとに彼に好意を持つ青年諸戸とともに南紀の孤島へ向かうのだが・・・
とにかく本書はおもしろい。そしておどろおどろしい。後半の畸形双生児の告白分のくだりなど戦慄を
おぼえたくらいだ。本書の恐怖感はなかなかのものである。すべての作品を読んだわけではないが、ぼ
くの中では本書が乱歩長編のベスト1。世評では「陰獣」のほうが評価が高いようだが、ぼくは本書の
ほうを推す。このロマンと恐怖と官能のミックスされた長編のおもしろさは格別だ。
未読の方は是非読んでいただきたい。必ず満足されることを保証いたします。