読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

スティーヴン・キング「ザ・スタンド」

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 アメリカ本国で本書が刊行されたのが1978年。そのときは出版社の意向で数百ページが削除された状態で刊行された。その後1990年に無削除の完全版が刊行されたが、日本で翻訳出版されたのは2000年になってからである。

 本国アメリカではこの作品をマイベストに推すファンが多いそうだが、ぼくはやはり「IT」や「シャイニング」の方が好きだ。しかしそこはやはりキング、この本もかなり読ませる内容になっている。

 最悪の致死率と感染力を持つインフルエンザ・ウイルスが軍の施設から漏洩し、またたく間に世界に広がったウィルスは、人類を死滅させてしまう。

 だが、わずかに生き残った人たちがいた。彼らは奇妙な夢に導かれ、マザー・アバゲイルのもとに集まっていく。集結した彼らは共同体を築き、共同生活をはじめる。

 しかし、もうひとつの集団がラスベガスに集結していた。『闇の男』が率いる悪の集団だ。やがて二つの集団は干渉しあい、最後の決戦へと突入していくのである。

 出だしのウィルスの蔓延から、死滅後の世界まではかなりおもしろかった。バタバタと人が死んでいくなか、どうしてか生き残る者がでてくる。それらの人物たちをカットバックの手法であらゆる角度から描いてゆくところなど、いつものキング節ページを繰る手が止まらないおもしろさだ。

 しかし、夢に登場する老女アバゲイルのもとに生き残った人々が集結するあたりから物語は停滞しはじめるのである。コミューンとしての機能を確立していく過程が詳細に描かれ、ここは正直ダレた。社会学者でもないのに、集団の問題や解決策なんか長々と読まされても退屈なだけだった。

 このダレ場があるために、本書の評価は低い。これなら、マキャモンの「スワンソング」のほうがエンターテイメントに徹していた分すっきりしてておもしろかった。

 どうして本国ではそんなに評価が高いのだろう?やっぱりアイン・ランドなんかを熱読するくらいの国だからこういう熱くて、向上的な物語がもてはやされるのだろうか。

 これだけ悪口いってても、読み終わってみればまたそれはそれで感慨深いものがあるのは事実である。

 一種の達成感とでもいおうか。よくがんばったな、と自分で思うのである。