そういう事。
デビュー当時のマキューアンは、とんがっていたのだ。彼がこの第一短編集を出したのは27歳の時である。そんな彼もいまでは58歳、英国で押しも押されぬ文学界の重鎮となっている。
本書には、八つの短編がおさめられている。
どれもインパクトは強烈、特に「蝶々」の毒には思いっきりやられてしまった。はっきりいってこの作品はキツイ。逆にラストの「装い」なんかは、やはり少々変態がブレンドされているのだが、でも、本書の中ではいちばん好きな作品だ。
マキューアンの作品から思うのは、誰もが秘めている闇の部分、といってもホラーではなく本能の部分を静かに容赦なく描き出しているってことだ。描かれているのは、インモラルな普通じゃない世界なのだが、どうもそこには心の奥底に響いてくる安寧といっていい落ち着きがある。
扱っている題材は近親相姦、幼児性愛、服装倒錯といったアブノーマルなものばかり。
しかしこれが彼の筆にかかると、まったく生臭くないから不思議だ。「セメント・ガーデン」を読んだときにも感じたのだが、このころの彼の作品にはどこかあやふやな不確かな浮遊感ともいうべきものが漂っている。ゆえに充分ショッキングな題材を扱っているのにそこには官能めいた興奮は介在しない。
う~ん、この作家はおもしろい。読ませる。読んでしまう。
肯定できる世界ではないが、どうしても読んでしまう。やはり人間はエロス&タナトスに本能の部分で呼応してしまうのだろう。
とにもかくにも本書は傑作揃い、どうか臆せず手にとってみてください。