これだけ荒唐無稽な話が好きだ。
本書の主人公田浦は中年という人生の折り返し地点にたって、はじめて本当に愛すべき女性に出会う。
この女性が不思議な存在だ。病院の衝立越しに出会ったこの女性はどんどん若返っていくのである。
それは文字通りの若返りであって、身体的な退行現象なのだ。彼女はどんどん若くなる。
どんどん若くなって子どもになっていく。
物語の設定は目新しくない。しかし本書が一読忘れがたいのは、展開に目を瞠るものがあるからだ。
山田太一のおもしろいところは、俗な部分を美化せず描くとこにある。
人間の生理的な欲求や、本能をそのまま作品に反映させているところが素晴らしい。
本書ではお互い激しく求め合う二人が描かれるわけだが、女性の方は若返っていくわけである。しかし男はそこで怯まない。彼は若返って自分の娘ほどの年になった女性と身体を重ねるのである。これは傍目から見れば完全にロリコンだ。しかし、冷静な目で見れない読者にとっては、完全にファンタジー世界の出来事として受け入れられてしまう。もしかしたら、これは男性側だけの意見かもしれない。ラストもそのせつなさに思わず涙が出そうになったくらいなのだが、これも男性だからそう思うのかもしれない。
とにかく、ぼくにとってこの作品は「異人たちとの夏」と並んで忘れがたい印象をもっている。いまは絶版かもしれないが、古本で見かけたらどうか手にとってみていただきたい。良くも悪くも印象に残る作品に間違いないのだから。