読書の愉楽

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筒井康隆「わが良き狼」

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 筒井康隆の短編集といえば、本書なんかより「毟り合い」「走る取的」「五郎八航空」などの傑作目白押しの「メタモルフォセス群島」や、これまたストレートなSF舞台で繰りひろげられるグロでエキサイティングな話ばかりの「宇宙衛生博覧会」や筒井短編の最高傑作ではないかといまでも思ってる「乗越駅の刑罰」が収録されている「将軍が目醒めた時」なんかを選ぶべきなのかもしれない。また、最近ではテーマ別に編まれた自選短編集なんかも出てるし、そちらを取り上げるのがいいのかもしれない。

 でも、やっぱり本書を紹介したいのである。

 この短編集、内容的にはたいへんバラエティに富んでいる。おなじみのスラプスティック色満開の「地獄日本海因果」、「わが家の戦士」、「わが愛の税務署」や、非常に危険で不気味な印象の「夜の政治と経済」、「若衆胸算用」、まじめなSFの「走る男」、「下の世界」。奇妙な味と風刺が見事に融合した「団欒の危機」などなどほんとにいろんな表情で楽しませてくれる。特に「地獄日本海因果」なんか、いま読んだら現実とあまりにもリンクした内容に驚いてしまう。

 そして、そしてこの短編集のなかで、いやいや筒井短編の全作品のなかでも最高に素晴らしい表題作の「わが良き狼」。

 これは、胸の熱くなる作品だ。なんともいい。ファンタジックな世界を舞台に描かれる友情の世界。

 かつてのヒーローと、零落れてしまった好敵手。う~ん、愛しい作品だ。J・フィニィやヤングの作品に通じるティストがたまらない。さびれてしまった悲しさと胸の熱くなる懐かしさ、そして人々のやさしさが交じり合った傑作だ。この作品が収録されているからこそあえて本書を紹介したかったのだ。

 思い出しただけで、鼻の奥がツーンと熱くなってしまう。未読の方がおられるならば是非お読みください。