ほんとうに、ライトノベルを見直しつつあります。すべてを肯定するわけではないが、中には大人の鑑
賞に耐えうる作品もあるんだということに、いまさらながら気づいた次第。
本書は表紙が良かった。これはおじさんでも堂々と買えるくらいのライトノベルにあるまじきシックで
センスのいい表紙だった。目次のタイトルも、ミステリファンならニヤリとしてしまう遊び心が発揮さ
れてて意外だった。
で、内容なのだが、これがまた尋常じゃない。なんせ主人公は女子高生のシリアルキラーなのだ。
開巻早々、読者は犯行現場に付き合わされることになる。えー、女子高生がハンマーでそんなことしち
ゃいかんよ。うわあ、血と脳漿でぐちゃぐちゃだよ。しかもこの子、沈着冷静に事におよんでるし。
えーっとその前に、ページを開いた途端カラーの挿絵が何枚かあるのだが、ぼくはまずそこで驚いた。
だって、女の子二人が裸で抱き合って、浴槽につかってるんだもの。しかも抱きつかれてる方は左手に
包丁握ってるし。いったいどういう話なんだろうか?と興味津々にならざるをえない状況だ^^。
少しシニカルで、怒りを孕んだ殺人鬼の少女理保と茫洋として極端なマイペースの恋人基樹。この二人
が、不死者である奇妙な少女実和に出会ったことから、歯車が軋みだす。
ライトノベルなのに、ライトじゃない世界観がおもしろい。変化にさらされる日常と、そこに埋没する
登場人物たち。だが、世界は変わらない。世界を変えることはできない。言葉にすれば、嘘になるとい
う現実が、大きな壁となって立ちはだかる。要するに、自分の本質は誰にも理解されないのだ。うまく
言葉で伝えようとしても、それが口先から出た途端、嘘になってしまう。自分たちを取り巻く世界の普
遍性とそれに抗えないという現実。そして、存在の不確かさをこれだけ危うく描いていることに驚いて
しまう。なかなかに哲学的で思想的だ。
しかし、描かれるのは高校生の日常なのだ。恋愛に悩み、自分の位置付けを模索している普通の高校生
たちなのだ。う~ん、いったいこの感覚をどう説明すればいいのかわからない。なんとも奇妙な感じな
のだ。ひとつ言っておきたいのが、問題のカラー挿絵の場面だ。この場面には驚いてしまった。予感が
なかったわけではないが、こうきたか!と思ってしまった。ここは本書のクライマックスである。
ぼくは、いままでにこんなに明るくてしかも残酷な描写を読んだことがない。圧巻だ。
というわけで、本書もぼく的には「当たり」だった。
ライトノベルという未知の金鉱には、まだまだこういう作品があるのだろうか。
今後も嗅覚をたよりに精力的に探していきたいと思う。