読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

小路幸也「空を見上げる古い歌を口ずさむ」

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 気になっていたこの本をやっと読むことができた。メフィスト賞受賞作ということで、まあ一筋縄ではいかない作品なんだろうなとは思っていたが、まさかこんな話だったとは予想もつかなかった。

 まず、ある日突然自分以外の人間の顔がのっぺらぼうに見えてしまうという出だしでつまづく。

 まさか、これそういう類の話じゃないよね?と危惧しながら読んでいたら、まさしくその通りだったので二度驚く。こういう話は嫌いではないが新鮮味も感じられず、殊更強調されているノスタルジックという部分にもあまり共感できなかった。

 物語の下地になっているパルプ町でのエピソードには、多分作者自身の体験が色濃く反映されているのだろうが、その部分に郷愁やせつなさはなく、どちらかといえばまどろっこしい印象が強く残った。

 しかし、ゲスモノ、マレビト、タガイモノのくだりなどは大雑把ではあるが一貫性があって楽しめた。でも、この真相がわかるのが物語のラスト近くなのがクセモノだ。これから物語が大きく動いていくはずなのに、ゴールがすぐそこに迫っているのだ。これでは起承転結の『転』でラストを迎えたようなものではないか。その終わり方が悪いというわけではないが、本作ではそれに続く余韻が感じられなかった。

 ただ、その点については一人称の語りで全編通してしまった構成で大いに損をしているように思う。過去を語ることによって、すでに起こってしまった事として読者に判断材料が与えられることになるから、この手法はよほどうまく展開しないと、ただの思い出話になってしまう。ぼくとしては現在進行形のほうが、もっとおもしろくなったのではないかと思ってしまうのである。でも、そうすると『郷愁』は演出できなかったのだろうけど。
 
 というわけでこの作品、あまり心に響かなかった。ちょっと期待が高すぎたかな?