読書の愉楽

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山口雅也「狩場最悪の航海記」

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 あのガリヴァーが有名な旅行記の続編を書いていたというのが本書の設定である。日本にやってきたガリヴァー徳川綱吉側用人である狩場蟲斎(かりばちゅうさい)となんとも不思議で奇怪な冒険を繰り広げるというおはなし。

 

 ノッケから偽書としての体裁が完璧に整えられており、最後になんらかのサプライズがあるのだろうと期待させるつくりとなっている。また、いきなり不可解な死が描かれ、それについての謎解きもあったりして、ミステリとしての興趣も保ちつつ話は進んでゆく。ある目的のために彼らは航海にでるのだが、お約束の大渦があらわれ(実際、ぼくも小学五年のときに授業の一環で物語を作ったのだが、そのときの話が探検隊が大渦に巻き込まれてある島に漂着したら、そこがロスと・ワールドだったという話だった。)謎の島に辿りつき、そこで未知の存在と遭遇する。

 

 いってみれば、非常にオーソドックスな冒険譚なのである。もちろん話の展開自体はすこぶるおもしろく、裏切りや発見があり、そこに驚異と少量の衒学がくわわってグイグイ読ませるのだが、いかんせんベースがあまりにも古臭いのでそれが割をくう結果となった。おこがましい限りだが、読んでる間中ぼくの頭の中にはかつての自分が描いた物語がオーバーラップし続けていたのである。

 

 当然のことながら、ラストに近づくにつれ興趣はさめる一方で、ゴールしたあともその不満は解消されなかった。だから最後の最後で明かされる本書のささやかなサプライズも心の底から楽しめなかったのである。

 

 ぼくにとって山口雅也は「生ける屍の死」一冊で永遠に心に刻まれる名前であり、ミステリという広大な沃野においても突出したブランドネームであり続けるのであって、その後に書かれた彼の数々の作品はすべてその究極の一冊の足元にも及ばないと思っている。ぼくが彼の本を読むのは「生ける屍の死」を越える、いや一歩ゆずって並ぶ本にまた出会えるかもしれないという期待からなのだが、その願いはいまだに叶えられていない。ああ、どうか、またあの感動をあじわえますように、神様お願いします。