読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

阿部智里「空棺の烏」

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 遅まきながら着実に追いかけております。相変わらずこの世界はゆるぎない堅実さでもって構築されていて、読んでいて安心なのでございます。いくらファンタジーといったって、その設定がいい加減だとやっぱり興醒めしちゃうもんね。まして、魔法的な存在や力があるからといってなんでもあり的な展開になんかなった日にゃ、一気に読む気が失せてしまいます。


 その点、この八咫烏のシリーズは、世界観が盤石である上に歴史までもがしっかり積み重ねられているから、もう言うことなしなのであります。


 で、今回は若宮の近習として活躍していた雪哉が、自ら志願して入峰(にゅうぶ)することになる『勁草院』が舞台となる。ここは山内を統べる宗家を守る近衛「山内衆」を育成する武官養成所。厳しい訓練に脱落する者も多く、ここを最後まで修めた者は真のエリート武官となるのである。


 しかし、やはり学校というのは社会の縮図であり、そこでは様々な力関係や圧力、バックグラウンドがもたらす身分格差や、あろうことか教官によるえこひいきなんて問題まで出てくるから大変だ。そんな中で、われらが雪哉は、強かにとぼけながら徐々に頭角をあらわしていく。そして、若宮の近習として培った確かな選択眼でもって真の友を選び、また大きな目的を果たしてゆく。

 
 えーっと、だいたいそんな感じなんです。いつものごとく確かなストーリーテリングでもって、どんどんページを繰らせるし、次巻に対して大きな期待をもたせて終わらせる演出(文庫で集めてるにも関わらず、実際のところ次の「玉依姫」をもう読んでしまおうかと真剣に悩んでおります)も光ってる。でもね、読んでいる間ずっと気になっていたのが雪哉の変貌ぶり。あれ?こんなに腕っぷし強かったっけ。頭の良さはよく知っていたので違和感なかったけど、前巻までこんな感じじゃなかったよね?澄尾から特訓でも受けたのかな?


 それにしても、このシリーズはほんと目が離せません。次の「玉依姫」は、実際のところこのシリーズの原点なんでしょ?ここから物語が発生していったのだとか。ましてや、現代が舞台で、女子高生が主人公だなんて、あの小野不由美十二国記まんまじゃないの。もちろん、作者もあの傑作シリーズは読んでいるだろうし、多大な影響も間違いなくうけているのだろうけどね。


 最終的にはどれだけの物語になるのか予想もつかないが、ぼくは最後まで付き合いますよ。あ、そうそうこの文庫買ったときに発売記念として、八咫烏シリーズ外伝の「しのぶひと」の小冊子が無料配布されておりました。他にも何編か短編があるそうなので、そのうちまとめて一冊になるんだろうけど、いまならまだ本屋にあるかもしれません。