読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

阿部智里「玉依姫」

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 シリーズ5作目にして、はじめて現代世界が物語に絡んでくる。というか、この作品がすべての作品の原点なのだそうで、女子高生だった著者がはじめて描いたファンタジー小説が本書だったということなのだ。

 だから、物語の導入は異界へと紛れ込む女子高生というありきたりな作り。しかし、そこからがこの物語の本領発揮の部分で、まあよくこんな展開思いついたなと感心した。

 それでも、まだこの壮大な物語の全体像がまるっとするっと全部お見通しだ!ってわけではないので、読者としては少し情報不足の状態におかれていて、それは巻をおうごとに少しづつ解消されていくのだが、今回のようにコロっといままでの環境と違う世界が描かれると戸惑う部分がある。

 いや、現代のわれわれの異世界と異界である山内が地続きでつながっていてどうのこうのっていうのはこちらとしても想定内で、それはOKなのだがファン心理としていままでの経緯と今回の物語との位置関係のようなものを自分の中で確定したいという欲求が生まれてくるのだ。それは居心地の悪さとなって、ずっと居座り続ける。その状態のまま読み進める微かな不安と物語自体のおもしろさが反発しあってちょっと未消化気味。物語自体も今回はかなりフルスロットルな感じだったしね。

 この状態で、また待ち続けるのが辛い。第六弾の「弥栄の烏」はすでに単行本として刊行されているが、さてどういう物語となっているのか?山神の名前はわかったのか?猿との決着はつけられるのか?そういうところも今回の物語ではあやふやな感じなのではやく知りたい。今回一番戸惑ったのが、奈月彦と大猿が普通に会話してるところだったもんね。「黄金の烏」で登場したこの新たな脅威の問題が、何事もなかったかのように描かれているから、いったいこの物語は全体のどの部分に位置づけされるんだろう?と思ってしまうのだ。

 しかし、世界は盤石だ。ちょっと都合のいい部分がないこともないのだが、世界観はしっかりしている。日本古来の神仏に関する伝承や伝説のもつ意味を汲み取って物語に取り込んでいるところも素晴らしい。日本人の描くファンタジーってあまり好きじゃなかったのだが、このシリーズは別格だ。ホント、おもしろいねえ。