読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

景山民夫「遠い海から来たCOO」

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 いまでこそ、恐竜が出てくる話は手垢がついた感じでありふれているのだが、本書が刊行された18年前は、とても新鮮に感じたものだった。

 何がよかったといって、南国を舞台に爽やかな陽光の中で語られる物語の中にノスタルジックなせつなさが横溢しているところがとてもよかった。

 少年とプレシオザウルスの交流が微笑ましい。この感覚は「E.T」と同じ感覚かな。

 12歳の少年が、自身のすべてをかけて全身全霊で愛を育む姿にホロリときてしまうのだ。それは、もちろん見返りを求める愛などではなく、親が子に与える愛と等価のもの。この、子どもが無償の愛を与える姿に、無条件に感動してしまう。

 物語の後半、フランスの諜報機関や核実験なんかが絡んでくるのが少々煩わしいが、物語の展開上これは仕方のないことなのだろう。「E.T」もそうだったしね。

 それでも、本書は素晴らしい。使い古された物語かもしれないが、やはり琴線に触れてしまうのだ。

 この気持ちがある限り、自分は大丈夫なんだと思える。こういう話に涙を流せる自分が好きだ。

 景山民夫はこの本で直木賞を受賞しこれからを大きく期待されたが、どうも方向性を誤ったらしく宗教に肩入れして、突然亡くなってしまった。小説で頭角をあらわす前は「オレたちひょうきん族」でヨゴレ役なんかをやってたので変なやつだなと思っていたが、作品を読むかぎりその早い死が惜しまれてならない。いまではもう忘れ去られた作家に等しいが、こういういい作品は残っていって欲しいと思う。

 でも、いまではドラえもんの同じ設定の話の方が有名なのかな?