延王の国作りの物語。
適度にユーモアを交え、それでいて物語はシリアスに進められていく。何事にも動じることなくなにも考えてないような、まるで昼行燈でいながら、実は豪胆ですばらしく頭のキレる延王尚隆と慈悲のかたまりでいながら、自由奔放で屈託のない麒麟の六太。
この二人の描き方がすばらしい。
敵役である斡由も、善から悪への移行が巧みに描かれ、ラストにはとても胸のすく思いをあじわうことができる。
しかし、本書で描かれる戦争の布陣についての描写などは、ほんと舌を巻いてしまう。たとえばこんな描写
『軍は左右中の三軍、これは黒備といって各軍に一万二千五百兵それが不可能な場合には、白備一万、黄備七千五百とその規模を下げていくのが通例である』
小野さん、すごいですね。こんなことサラッと書けちゃうんだから、驚いてしまう。ぼくが読んだのはまだこの本が講談社X文庫ホワイトハートのときだったから、おもに女子中高生が読んでいたんだろうに、なんて克明な描写なんだろう。
物語の構造的には典型的な日本人好みの展開で、まあいってみれば「水戸黄門」のような感じなのだ。
でも、それがとても心地いい。筋が読めてもいい。この世界がすばらしい。