読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

阿部智里「烏は主を選ばない」

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 さっそくニ作目を読了。遅れて食いつくと、こうやってまとめて読めるという利点があるからいいよね。でも、まあ、すぐ追いついちゃうんだけどね。


 というわけで、「八咫烏」シリーズの第二弾なのであります。いまさらながらかもしれないが、一応知らない方もおられると思うので簡単に説明しますと、本書はファンタジーでありまして、八咫烏に変身できる人々が暮らす「山内」という世界が舞台。前回は次期「金烏」となる若宮の后に選ばれるため四人の姫が桜花宮に登殿し、后の座をめぐってさまざまな駆けひき、術策を繰りひろげて、最後に驚きの展開をみせたのだが、当の本人である若宮がまったく姿を見せなかった。


 で、本書なのである。そう、本書ではその若宮がその時いったい何をしていたのかが描かれている。いってみれば前作「烏に単は似合わない」と本書「烏は主を選ばない」はそれぞれ同じ時間軸の表裏となっているのである。


 本書の主役を務めるのは、雪哉という少年だ。北家の領地である垂水郷の郷長の次男坊。彼が若宮の側仕えになるところから話は始まる。この雪哉という少年、普段からぼんくらと呼ばれ、みんなが彼のことを心配しているのだが、その少年が『うつけ』と陰口を叩かれている若宮に仕えるのだから話はややこしくなるばかり。でも、大方の予想通り彼らが本当の意味でのぼんくらやうつけではないのは、常套だ。まあ、あの華やかでありながらけっこうドロドロしたお姫さま達のバトルの裏ではこんな事が起こっていたんだね。


 しかし、この雪哉が素晴らしいね。まさに愛すべき少年だ。少年でありながら、彼には一本、芯が通っていて、それは大人の目から見てもかなり大きく太い芯なのである。彼が、その芯を持っているがゆえに、彼の言動は揺るぎない。だから、本書の中では読者の期待を裏切るような展開となってしまう。


 さて、こうしてこの世界の物語はようやくスタート地点についたというべきか。次回「黄金の烏」以降どんな物語が展開されるのか、期待は高まるばかりだ。