読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

阿部智里「烏に単は似合わない」

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 もともと時代小説や歴史物は好きだけど、王朝絵巻みたいな話は苦手でいままで読んでこなかった。だって、王朝っていえば平安時代でしょ?平安っていったらもう異世界みたいなもんで、習慣から、食べ物から、物の考え方から、甲乙のつけ方まで、まったく別物といっていいくらいではないか?だからなかなか頭がついていかないんだろうね。もう最初っから拒否ってるもんね。

 しかし、この『八咫烏』のシリーズの凄さはいろいろ耳にしていたから気にはなっていたのだ。これだけいろんな人がその魅力にハマっているってことは、見るからに王朝っぽい話みたいだが、かなり間口の広い話でもあるんじゃないか?と、ここまでくどくど書いてきたが、結局ぼくもこのシリーズの魅力にハマっちゃったというわけ。確かにね、瑕疵がないとはいわないよ。納得いかないところもあるし、気になる部分も多々あったし、そりゃないでしょうとツッコミ入れたいところもかなりあった。それでも、これを二十歳そこそこのお嬢さんが書いたってところに心底驚いてしまうのですよ、おじさんとしては。しかもその世界観がかなりの完成度で確立されていて、バックグラウンドまで含めて、本書を端として壮大な世界が構築されているらしいではないですか。もうこれは事件みたいなもんじゃないの?

 で、その内容なのだが先にも書いたとおりここで描かれるのは八咫烏の世界。八咫烏っていうとあの日本の神話で有名な三本脚の烏ね。だから本書は純然たるファンタジーなのであります。ファンタジーでもあるけれど、歴史王朝絵巻でもあり権謀術数渦巻いてあれやこれやと事が起こっていくと、ミステリとしての要素も俄然輝きだしてきてって感じで、なかなかのハイブリッドぶりなのですよこれが。

 物語は八咫烏が支配する世界を統べる『金烏』の世継ぎである若宮の后選びに端を発する。次の后になるために候補となった四人の姫。それぞれがそれぞれの事情を抱え、それぞれがそれぞれの思惑と共に時にはお互いを牽制し、時には庇いあい、ただ一点のみの目的に向かって突き進んでゆく。そこで起こる数々の事件。
 
 読み手としては、作者の手玉にとられて読みすすめていくことになる。もう必ずそうなっちゃう。そしてラストまできて、驚愕するのである。ああ、そんなことになっていたのか!え?じゃああの時、あの人がとった行動の裏にはそんな意味が?え?あの時あの人が言ったあの言葉の裏にはそんな・・・・・・・。

 本書は二度読み三度読みするごとに、作者の周到な伏線に驚いてしまう本だといえる。実際ぼくは三度読みまでしていないが、本好きゆえに必ずそうなるはずだとわかっている。

 またこのシリーズは現在第五作「玉依姫」まで刊行されているが、来年出る第六作でシリーズの第一部が完結するらしい。なんとも壮大ではないですか?おそらく第一部が完結した段階で、もう一度この第一作を読み返したら、さらなる発見があるんじゃないかと思う。それくらい、この話は完成度が高いはずなのだ。いやあ、これ以降の話読むのが楽しみだなあ。