読書の愉楽

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浅暮三文「ダブ(エ)ストン街道」

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楽しめた。こういう話は大好きだ。

メフィスト賞受賞作なので、ミステリの範疇での期待をして読んでしまう人もいるかもしれないが、本書は純然たるファンタジーである。それもかなり変わったファンタジーなのだ。

ファンタジーの常として本書もクエストの物語なのだが、その舞台となる世界が秀逸である。
誰も行き方を知らない、帰り方もわからない、名前すらも人それぞれ呼び方が違っている不思議な島ダブ(エ)ストン。

この島では、誰もが何かを探している。島全体がいつも霧に覆われ、目標となるものが見通せないから誰もが道に迷っているのだ。

主人公ケンは夢遊病者である恋人タニアを探している。彼が出会う人々も彷徨いながら何かを探している。ポストを探している郵便配達夫。町を探している楽団。何を探してるのかすぐ忘れてしまう全裸の男なんかもいる始末である。主軸とは別に語られるエピソードでも赤い影を探し求める王の隊列や、生まれ故郷を探し求める海賊の幽霊などの話が出てくる。

みんな探して彷徨っているのだ。それらの登場人物たちが縦や横に交差して、いろんな形で物語に絡んでくるのである。

すっとぼけたユーモアと、寸止めの奇想。だが文章や章題なんかは、おそろしく洗練されている。

作者の力量が、まだまだこんなものではないよと告げている。

なんとも、楽しみな作家だ。これからも読み続けていこう。