読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

綿矢りさ「生のみ生のままで (上)」

生のみ生のままで 上 (集英社文庫)

 

 

「ひらいて」でも女性同士という関係を描いていたが、あちらは、突き抜けた暴走ゆえの結果の話だった。しかし、本書は同性の恋愛の成り立ち自体を真正面から描いている。やってくれるね、綿矢りさ。 

 まだ上巻を読んだだけなのだが、これは胸苦しい。条件が揃いすぎて怖い。かたや芸能人、それも少しづつ認知され売れだしてきている大事な時期なのだ。しかし、その彼女のほうが先に惚れてしまったのである。だから彩夏は逢衣を心の底から愛する。逢衣も最初は拒絶していたのに、激しく彩夏を求めるようになる。お互い異性の恋人がいたのにだ。

 人が人を好きになるのに条件はない。そこには衝動があるのみだ。自分の心の動きなんて、その時になるまでわからない。好きなものが嫌いになることもあるし、美しいと思うものが変わることもあるし、昨日はこうだと思っていた事が次の日には真逆に思うこともある。それは衝動だ。心の中で自分にもわからない科学変化が起こって爆発するのである。そして、好きになると求める。求めるし、認めてもらいたくなる。信頼と愛情の相乗効果で満たされる。

 本書は、逢衣の目線で進められてゆく。彼女は、高校時代から憧れ続けていた颯先輩と結ばれ、今幸せの絶頂にいたはずなのに彩夏の存在がその日常をガラっと変えてしまう。それはやはり科学反応だ。受け入れられないのに、気になる。心では、拒絶しているのに身体が反応してしまう。相手を思う強い意志が真反対のベクトルを変えてしまう。世間の目、常識、普通じゃない、そういった異性間の恋愛では問題にならない事が彼女たちに覆いかぶさってくる。しかし、日々は甘い。これは相思相愛なのだ。お互いが求め合って成立しているから、そこに暗雲はないのだ。

 上巻では逢衣の葛藤が描かれる。自分はおかしいのか?同性同士の恋愛などいままで微塵も考えたことがなかったのに。でも、気になる。男とか女とかじゃない。わたしは、彩夏が好きなのだ。葛藤は、読む側にも切々と伝わってくる。しかし、そこに切なさはない。どちらかというと獰猛な剣気ともいうべき猛々しさを感じる。ここらへんのテイストは「ひらいて」でも感じた。

 さて、上巻のラストでとんでもない事態になってしまった。二人の行く末はどうなるのだろうか。