読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

松田青子「女が死ぬ」

 

女が死ぬ (中公文庫)

 この人「スタッキング可能」が話題になったとき、読みかけて合わないなと思ってやめたんだよね。でもね、やっぱり女性作家でこういうちょっと変わった感性の作家さんて気になってしまうのだ。掌編集だから読みやすそうだしね。

 読んでみて感じたのは、女性としての生き辛さ、すぐには解決できない永遠のテーマ。女性なら大抵の人は、ひととおり体験するだろう様々な問題。そういったものが、念を籠めて描かれる。そのことを、男性のぼくがこうやってなんの衒いもなくここにこうして作者本人の意図も確認せずに、感じたまま書いてもいいものか?とひとまず立ち止まってしまうけど、やはり感じたことはストレートに、シンプルにそのまま解釈を間違っていたとしても書いたほうがいいのだと自分に言い聞かせて書こうと決心するほどに切実である意味深刻だ。

 男性が女性に求めるもの。自然と行われているけど心に澱となって溜まっていく日常の営み。世間という大きな仕組みの中で孤立させられてしまう焦燥。それが当たり前だと誤解されている男性目線の常識。よかれと思われていることが痛めつける大きな鉈になるという恐怖。言い寄られ、妬まれ、期待され、誤解され、勝手に傷つかれ、それに対応しようとして、笑顔が凍りつき、態度が改まり、不安と怒りが混在し、どうしようもない境遇に涙する。女らしさって?勝手に求めて理想を作りあげないで欲しい。社会のルール?一般常識?そうあるべき、あなたの頭の中にいる女性は私じゃない。

 こういったことも男性であるぼくが独断と偏見で勝手に親切めかして曲解しているだけなのかもしれない。だってぼくは女性じゃないから、女性自身のことは心底から理解できているわけじゃないだろうから。こうやって、このことに改めて目を向けるとフェミニズムっていう思想自体、男が主体のものだと思うし、男女同権なんていうバカバカしい主張もまかり通っているだけで誰も心の底からそう思っていないんだと思うのである。

 なんてこと書いてきたけど、そういった話ばかりでもないからね。底に流れるテーマがそれであったとしても、ここには五十三の本音と理想と諧謔と可愛らしさがブレンドされた光を与えてくれる掌編が詰まっている。ご賞味あれ。