まったくもって正統派のミステリであり、最後の最後まで謎の真相がまったくわからないという点で見事な構成。でもね、犯人が誰かは案外はやくから見当つくんだけどね。ま、これは本書を読んだ人のほとんどがそうだろうし、それは作者もわかって書いていると思う。
しかし、この動機は気づかなかった。ていうか、この動機の原動をにおわせる描写や、強い反証があればもっとこちらの胸に響いてきたのではないかと思うんだけど、言い過ぎ?
舞台は、大戦前夜の満州。探偵である月寒三四郎にある筋から依頼が舞い込む。退役した元陸軍中将・小柳津義稙の孫娘の婚約者が急死したのだが、殺された可能性があるというのだ。調査に乗り出した月寒の前に満州に巣くう魑魅魍魎がたちはだかる。
最初にも書いたが、本書は非常にオーソドックスなミステリなのだ。事件が積み重なり、その中心にある誰がなんのためにという真相にたどりつくまでの丹念な道程を描いている。有能であるはずの探偵は、なかなか真相に到達できず、何人もの人が死んでゆく。まるで金田一耕助じゃないか。だが、本書の月寒は、少し個性が足りない。あまり目鼻立ちもよくわからない。その点が少し残念かな。
しかし、時代の雰囲気と、それに則した物語の陰影がページを繰る手をはやくさせる。質実で手堅い印象を与えるミステリなのだ。