読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

綿矢りさ「私をくいとめて」

私をくいとめて (朝日文庫)

 

 まるでキャッチーなタイトルとは裏腹に、ここにはいつもの綿矢節というか、瑞々しい警句に満ちた鋭敏な文章が皆無で間延びした印象だった。内容も、あまり目立たない33歳OL黒田みつ子の山なし谷なしの日常を描いているのだけど、もともとの設定でみつ子の頭の中で別人格のAという分身と会話して自分では判断のつかない問題や、ちょっとしたピンチを回避したりするのがぼくには納得できない要素で、でもそれじゃあ話を楽しむことができないから受け入れて読み進めていくと途中(といっても後半の方だけど)めずらしくイタリア旅行なんてのが描かれて持ち直すかなと思ったがそうでもなく、淡々と日々が消化されるだけで、先にも書いだけどスカッとする綿矢節炸裂の予見に満ちた警句や毒のあるやさしい苦味みたいなものがほとんどなかったからなんだか物足りなく感じて、結局のところ本作は彼女の作品の中ではまったく光を感じないものになってしまった。

 なんでだろう?冴えがないっていうか凡庸というか、これがもともと新聞に連載されていたっていうのも要因かもしれない。勝手に思っているだけだけど。解説では金原ひとみがそこんとこ切り取って逆に褒めてるけど、決してそんなことない。本書にはいつもの綿矢作品の魅力が皆無なのである。

 でも、この凡庸な作品が映画化されたみたいで、みつ子をのんが演じているそうだが、逆にこれを映画化するっていったいどう料理しているんだと興味がわいてくる。まあ、キャラクターはなかなかおもしろい人が登場していたから、演者さんがハマれば結構笑える作品になるのかな?

 とにかく、これは綿矢作品の中ではずっとずっと後回しにしてもいい本だと思う。