めずらしいよね、イスラエルSFだって。馴染みがないものだから、やっぱり身構えちゃう。で、最初の「オレンジ畑の香り」を読んで、う~んてなる。なんかとっつきにくいし、視覚に訴えるインパクトもなければ、ストーリーテリングのおもしろさも薄い。でも、せっかく買ったし、こんな分厚い文庫、最初の一編で見切りつけちゃいかんよなと気を入れなおして次にすすむ。「スロー族」ね。これは、まだとっつきやすかった。でも、さほど印象に残らない。次の「アレキサンドリアを焼く」は、ぼくの知っているあのアレキサンドリアのことですよね?と読みすすめる。これは、なかなか良かった。サスペンスもあり、クイクイ読めた。で、四編目の「完璧な娘」で完全にもっていかれる。
これはおもしろかった。まあ、興味を無理やり惹いている強引さはあるが、それでもおもしろい。新人類と、死者の記憶。そこに普遍的なテーマが絡んで印象深い。ここまできてやっと本書を最後まで読み通そうと固く誓った。
あとは、するすると読み進めていったわけなのだが、特に印象に残ったのはまるでブッツァーティの不条理物の傑作「なにかが起こった」のその後を描くようなディストピア物の「夜の似合う場所」、SFというよりはファンタジー色の濃い「エルサレムの死神」、ドラマを観るような軽快な運びでドタバタ調のひと騒動を描く「ろくでもない秋」、過去の有名SFがそのまま現実になってしまう、ワクワクするのに背筋の寒い「立ち去らなくては」かな。
なんかイスラエルSFなんて大仰にいわれると身構えちゃうけど、案外馴染んでくるね。ぼくにとって、ていうか大抵の日本人にとって遠い国の見知らぬ土地での話って思っちゃうけど、なかなか楽しめました。SFが苦手な人でも、いけるんじゃないかな?