読書の愉楽

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クリスチアナ・ブランド「ジェゼベルの死」

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 ブランド・ミステリの中では、質量ともに少々小粒な印象を受けるかもしれないが、本書も読んでみればおわかりのとおり、その真相の悪魔的な衝撃で忘れられない作品となるだろう。

 ぼくは本書を読んでカーの「妖魔の森の家」と同様の戦慄を体験した。まったく違うテイストの作品ながら、この二つの作品はトリックの真相の衝撃という点であまりにも凄惨であり、不気味であり、恐ろしいのだ。これにジョイス・ポーターのドーヴァー警部シリーズで一番有名な「切断」を加えると、ぼくの戦慄ミステリベスト3ができあがるというわけ。

 衆人環境である舞台上で起こる殺人。状況が特定され、犯人は舞台上にいる11人の中の誰かだということになる。いつものごとく、各人の関係が暴かれるにしたがって、誰が犯人でもおかしくない混迷状態となり、ラストではそのあまたいるレッドへリングたちが皆、殺人を自白してしまうというあまりにもコメディじみた狂気の大団円があったりする。しかし本書はミステリとしてはさほど巧みに描かれているわけではない。もっとも衝撃的な第二の殺人のトリックなどは真相が暴かれる前に、ちょっと勘のいい読者ならわかってしまうのである。でも、それでも衝撃は薄れない。わかってしまってさえその真相に戦慄してしまい、トリックを見破ってやった、先に見抜いてやったなどという優越感はどこかに吹っ飛んでいってしまうのである。魅せる殺人として、本書の真相はかの横溝正史の傑作群にも劣らない。その映像が頭に浮かんだ瞬間に、アッと声をあげてしまうはずだ。そう、本書はそういうミステリなのである。眉に唾つけて読むようなミステリではないが、イメージが戦慄をもよおすまことに秀逸なミステリなのだ。