読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

田村優之「夏の光」

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 これはまた変わったテイストの本だった。なにしろ『青春の影』と『経済』が同時に描かれるのである。

 主人公は証券会社の債券部門のチーフアナリスト。毎日を分刻みで過ごし、テレビのコメンテーターとしても活躍する働き盛りの四十代。顧客にむけて金利や経済動向のプレゼンをしたり、財務省に出入りし今後の国債の動向をリークしてもらい、それをリポートして市場へ流したりという仕事をしている。

 そんな彼がある日ばったりと高校時代の親友・有賀と再会する。ある出来事によって二十年以上も没交渉だった彼ら。そんな二人が再び出会ったことによって、封印されていた真実が浮かび上がる。

 高校時代の輝かしい日々の中で起こった忌まわしい事件。そこに隠されていた真実はあまりにも悲しいものだった。激情と誤解と優しさと不用意な一言が招いた悲劇。すべてが氷解し、気づいたときにはなにもかもが終わってしまったあとだった。そんな青春の影の部分と現在の主人公が活躍する経済情報がわりと紙面を割いて語られるのである。こちらのパートは正直あまり身が入らなかった。まったくの素人でも理解できるように噛み砕いて書いてあるのだが、もともとあまり興味のない分野なので読んでてちょっと辛かった。総じてオビに書いてあるほどの感動は得られなかったが、読んでよかったとは思える本だった。