この人の本を読むのは初めてなのだが、雰囲気的には女性の怖い面を強調したサスペンスっぽい作品を書く人なのかなと思っていた。当たらずとも遠からずという感じだ。本書を読んだ限りでは、それほどの吸引力は感じなかったが、普通に興味を持続して読み終えた。本書に収録されている短篇は以下のとおり。
「かっぱタクシー」
「三途BAR」
「ジェリーフィッシュ」
「つむじ風」
「石室」
「彼岸橋」
「雨女」
「澪つくし」
あの世とこの世の隔てが要になる作品が多い。自然、幽霊も数多く登場する。だからこの短篇集を一応ホラーの項目に分類することにしたのだ。でも、ホラーに分類したからといって怖いわけではない。本書を読んで感じるのは恐怖よりも哀しみだ。誰にでも訪れる死というものを正面から見据え、死の境界を越えた者と、こちら側に残った者の間にわだかまる悲哀が描かれる。また、作者のデビュー作となった「雨女」とその続編となる「澪つくし」はそういった悲哀に土着的な因習が効果的に加味されて、本短編集の中では一番印象的な作品となり得ている。
おもしろいのは、仏教的な謂れや世俗の成り立ちなどのちょっとしたペダントリーが楽しめること。だってみなさん、三途の川がどうしてそういう名になったのかなんて知ってました?
というわけで、短篇のテイストは一応わかったので、次は長編を読んでみようかなと思うのである。