なんなんでしょう、これは。どう説明したらいいのかわからない人を食った話なのである。アメリカ南部ミシシッピの田舎町で繰り広げられるなんともオフビートな騒動。老獪で残忍なスパイが暗躍し、作家を志望する常人離れした六人の女性たちがそれを迎え撃つ。話の基本形はこんな感じである。だが、そこに常套の物語にはない奇妙な鼻薬がこれでもかと効かせてあるのである。
まず、話の冒頭からして変わっている。深夜のテレビ修理店の天窓からドラキュラにしか見えない男が降ってくる。そしてそれからカウボーイ詩人スレイド・リヴァーズの物語がはじまりそれを執筆している本書のヒロイン ルシール・ヘアの登場となる。ね?なんとも奇妙でしょ?
とりわけおもしろいのが、個性あふれる登場人物たち。
魅惑的なボディにエプロンだけを着け、男を魅了しながら甘いスウィーツを作るクックブック執筆家のココ・フラッペ。
特徴あるビーハイブの髪型と理知的なドレスに身を包んだ図書館司書であり、スコットランド史の本を執筆しているジャズ・ディクスン。
ノーベル賞を受賞した科学者を夫に持つ買い物マニアであり、ショッピングの快楽を賛美した小説を書いているダラス・ディオール。
生粋のバイカーで黒一色の衣装でハーレーに跨り疾走するが、家には恐ろしい母親が待っているSF映画脚本家のアンドロメダ・リプリー。
生まれつきの女王様で、あらゆる男を相手にSMの研究を続ける頼れる女モナ・ドゥラ・カート。
その他にもルシールの兄であり愛する妻とコスプレ・プレイに励んでいるボー・ヘアとアイリスの夫妻、ドラキュラそのままの扮装のドリスケル・ラモント、鼻の曲がる悪臭を漂わせている悪鬼のごときルシールとボーのおじピーター・ヘア等々、本書には奇人変人が多数登場する。まさしくオン・パレードなのである。
かように本書はキャラクター小説の側面もあわせもっているが、話的にも最初に書いたとおりなかなかオフビートな展開をみせ、変な魅力にあふれている。心の底から賛辞を送るような作品ではないのだが、一読なんとも忘れがたく惹きつける何かがある本なのである。現在はもう絶版なのだろうが、どこかで見つけたら手にとってみていただきたい。