ようやく読む気になった。文庫化されるとは思いませんでした。これで未文庫化のビックネームは「薔薇の名前」だけになったかな。リチャード・パワーズとトマス・ピンチョンもあまり文庫化されていないけどね。
やはりこの作品は特別みたい。だって文庫のスピンも金色だしね。単行本でも二回刊行されていて、ぼくは当初のを積んでいたのだが、これがああた、ページ全部に字が密集していて、しかもすごく小さいから、まったく読む気にならなかったのだ。マルケス全集として再刊された時も、少しは読みやすくなっていたが、もうすでに持っているからなと買う気になれず、そうこうしている内に文庫化のお祭り騒ぎが到来したというわけ。
まあ文庫になっても字数の圧は変わらないわけなのだが、手に取りやすくなった分、気軽に開けるので車中本として二カ月かけて読了したというわけ。
本書を読んだ人、読もうとしたけど読み切れなかった人、読んでみたけどわけがわからなかった人、さまざまな人がいることだと思う。ぼくは本書を読んで、物語としてストーリーを追うという読み方はしなかった。なぜなら、読み始めてすぐにこの世界が循環していると感じたからだ。本書の中で時間はたえず繰り返される。エピソードの積み重ねによって語られるマコンドの歴史は、ぼくの頭の中ではブランコに乗っている感覚だった。前へ後ろへと振れ動くたびに景色が変わり、それが幾重にもかさなって層が作られてゆく。重ねられた層の中から、奇妙な出来事が強烈なインパクトを伴って頭に刻み込まれてゆく。磁石の棒を売るジプシーが通りを歩くと、釘や金物が引っ張られて家が揺れ動いたり、海から遠く離れた陸地に座礁している大きな船があったり、幽霊は普通に現れるし、土を食べずにおれない美少女がいる。族長が死ぬと空から大量の黄色い花が降ってきて家畜が窒息するし、文字通り天へ昇っていくものまでいる。
そんな出来事がまだまだ続く。それが、コロンビアの歴史と同列に語られる。マコンドと共に歩み、やがて滅びてゆくブエンディア一族の百年の歴史。栄枯盛衰なのだ。ゆえに、本書は平家物語でもあるのかもしれない。ま、すべての歴史はそうなるのが必定なのだけれどね。そうして予告された一族の歴史は匂いも影も残さず消えてしまう。しかし、長い間この物語と向き合ってきたぼくに喪失感はない。一族の彼や彼女の顔が浮かぶだけである。許されるなら、この世界にとどまりたい。そう願うほどに濃密でむせかえる読書だった。
