喪失が感情を呼び起こす。日々の中にある惰性と厳しさ。乗りこえるために、感情のままに字を綴る。結実した成果が本書におさめられている。
ねえ月がきれいだよって娘からLINEが来てて別れたらしい
ごめんなさいきらいでしたと悲しげな顔を作って焼香済ます
腐りかけのチーズのような明るさで金貸してよと弟が言う
酸素マスクずり下げながら腹減ってないかと問いぬ瀕死の兄は
知らぬ、出会ったことのない女性の人生の切りとられた場面がにわかに立ち上がる。母、父、夫、娘、兄、弟そして猫。著者の身内とのやりとりが残酷に克明にやさしく突きつけられる。美しさの中にある厳しさ。哀しさと共に感じる達観。時に喜びが生をつなぐ。
言葉の配置の的確さ、うるおい、鮮烈、光、一体となった短い結晶が心に響いてくる。いつものごとくぼくも刺激されて作ってみました。
忘れない忘れていてもわすれない変わらぬ笑みの歩けぬ母さん
少しづつ欠けてく身体とどまらず気持ちの内はあの頃のまま
寝たきりの父が乞いし氷菓子はねつけたこと今でも悔やむ
この切りつめた豊かな世界。言葉の可能性は無限大か?感性は広がり続けるのか?疑問は驚きとなってかえってくる。それも接する度ごとに。気持ちの揺れを確かめたくて、また本を手にとる。
