読書の愉楽

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笹沢左保「霧に溶ける」

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 一昔前の流行作家であり、380もの作品を執筆した量産作家という目でしか見ていなかったが、本作を読んで少しその見方を改めた。

 確かに時代的な古臭さは鼻についてしまうが、なかなかどうしてこの作品に流れるミステリマインドには感心させられた。とても薄い本なのだが、本書の中には様々な犯行トリックあり、動機の謎ありで結構楽しめるのである。

 本書の舞台はミス・コンテスト。最終選考に五人の女性が選ばれる。しかし、その女性たちが次々と命を奪われていくのである。いったい犯人の目的は何なのか?巧妙なアリバイ工作や、密室殺人の陰に暗躍する真犯人はいったい誰なのか?

 何度も書くが、確かに本書の風俗は古臭い。そりゃ、本書が書かれたのが昭和35年なんだから仕方ないだろう。だから、その部分の抵抗感はストレスに感じる人も少なくないかもしれない。しかし、それでも本書は一読に値する本だと思うのである。

 まず、本書には本格ミステリを書こうという作者の姿勢が見事に反映されている。それは謎の解明部分で挿入される犯行図一つとっても大いに感じられる。密室のトリックにしても、実際実現可能かと問われればちょっと頭を傾げるところがないでもないが、トリックの出来からすれば大いに納得できるものだ。

 はっきりいって、侮れないと思った。

 笹沢左保の初期の頃のミステリは、現在の本格系の作家たちにもファンが多い。かの有栖川有栖も、一時期ハマって読み漁ったことがあると、どこかで書いてた。ベスト10にランクインするほどの作品ではないかもしれないが、ミステリの構築美みたいなものはビンビン伝わってくる作品なのは間違いない。

 いや、ほんとのところ結構がんばってるんですよ、左保先生。