読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

山口芳宏「雲上都市の大冒険」

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「本が好き!」の献本第12弾。


これは、なかなか楽しめた。なんといっても鉱山都市を舞台にしているところからして、いろいろと胡散

臭い。まして、時代は昭和二十年代である。いってみれば、なんでもありなのだ。そういう観点でみると

本書はファンタジーとしてのおもしろさも兼ね備えているといえる。

第17回鮎川哲也賞受賞作ということで、巻末には三人の選考委員(笠井潔島田荘司山田正紀)の選

評が載っているのだが、みんな口を揃えて今後の活躍を期待しての受賞だといっている。それが何を意味

するのかといえば、本書は正統派のパズラーとしては評価されていないということなのだ。

ん?、じゃあ、本書はミステリとして欠陥品なの?と未読の方は思われるかもしれない。

いやいやみなさん、まだ席は立たないでいただきたい。どうかそのまま、もう少しおつきあい願いたい。

それではこれから本書のなんとも形容しがたい魅力について語ってみたいと思う。

確かに本書のメイントリックである密室からの人間消失の真相には開いた口がふさがらなかった。まさか

こんなことになっているとは夢にも思わない。道徳的にも如何なものかと思われる。これは読んで確かめ

ていただくしかないが、ぼくは大いに胸が悪くなった。このトリックを現実に行えるかといえば、素人の

ぼくでも無理なんじゃないだろうかと思ってしまうのだが、ビジュアルとしてのインパクトの強烈さゆえ

そんな瑕疵は吹き飛んでしまった。言い換えれば、それほど衝撃的だったということだ。ゆえに、それだ

けでも評価されるべき資質を本書は備えているといえるだろう。

まだある。

本書には二人の探偵が登場するのだが、これが意外と前例があるようでいて、かなり独創的なキャラク

ーとして描かれている。特に義手を自在に操る学生服の真野原玄志郎については一言いっておきたい。こ

の探偵は登場シーンからして、なんとも人をくっている。それが嫌味なくめっぽう楽しいところに留意し

たい。この人物はこのハイテンションのままラストまで突っ走っていくのだが、その奇矯さがあまりにも

非現実的なのに、それが様似になっているのである。陰惨な事件の中にあって、この探偵のキャラが醸し

出す独特の雰囲気が巧みにユーモアを引き出し、物語全体に明るいイメージを与えている点は評価に値す

る。ただ、ラストの真相解明の場面においてこの探偵がとる言動については、いささか眉をひそめざるを

得なかった。この部分では、少し嫌な思いをした。これは、本書の唯一のマイナス要素である。

とまあ、こんな感じで本書は本格ミステリとしては正統な評価を得られない作品だとは思うのだが、トリ

ックの独創性は群を抜いているし、昭和初期の海野十三のミステリのような奔放なおもしろさに溢れてい

る点で大いに評価できる作品だと思うのである。ラストでは、このシリーズがまだまだ続くと予見される

記述もあるし、これから作者がどんな世界を構築していくのかとても楽しみなところでもある。

いやあ、それにしても226ページの真野原のセリフ「もちろん、犯人をぶっ殺しに行くのですよ」には

シビれたなぁ。