読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

C・J・ボックス「沈黙の森」

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 遅れてきた読者でございます。だって、もうシリーズ9巻刊行されてるんだもの。でも、ぼくは用意周到だから、この一巻目を読んでいる間に他の巻全て集めました。そんな早まったことして、一気に買って、面白くなかったらどうすんの?と心配してくれた奇特なあなた、心配ご無用なのでございます。もう、この一巻目読んだだけで、このシリーズが傑作シリーズだってことは、一目瞭然なのでございます。


 というわけで、本題に入りましょうか。本書の主人公は、ジョー・ピケットというワイオミング州の猟区管理官。ちょっと耳慣れないでしょ?これは、狩猟一般に不正がないか山や森の中でハンター達を取り締まる仕事なのだ。ジョーは、この仕事が好きで誇りをもって就いている。美しい身重の妻と、まだ幼い可愛い娘たち、決して裕福ではないけれど真っ当に、正直に暮らしていた。しかし、そんな素朴でささやかで静かな生活が、ある日一人の男の死で壊されることになる。


 この主人公のジョーがね、いい奴なんだ。ちょっと頑固なところがあるけど、だからこそ揺るぎない信念が寄り添っていて頼もしい。決して彼は、ダイ・ハードジョン・マクレーンのようなタフガイでもないし、フィリップ・マーロウみたいな孤高のヒーローでもない。弱さも、迷いもある普通の男として描かれる。だからこそ、最初は様々な逆境に打ちのめされて傷つき心折れそうになっていたのに、愛する家族に危機が迫ると、厳然と立ち上がり修羅となって、立ち向かってゆく姿に、自分の気持ちが心よくシンクロして、大いなるカタルシスを味わうのだ。


あと、もう一つ言っておきたいのがジョーの娘、七歳のシェリダンのことである。彼女は、大人との距離が測れる聡い子だ。冷静に判断し行動する術を身に備えている。だからこそ、彼女は背負わなくてもいい重責を、その小さい身体で受け止めてしまうのである。彼女の苦しみを推し量って、子を持つ親であるぼくは胸が押し潰されそうになる。彼女の健気な姿に嗚咽が洩れそうになる。親が子を思うのは当たり前の事だが、幼い子も親を守ろうとするのである。その事実が胸を熱くする。


ああ、なんて素晴らしいことなんだろう。いい物語は気持ちを鼓舞する。このシリーズは続けて読んでいく所存でございます。